お別れの日は笑っていられますように。







さよなら ばいばい またね








「今までありがとう」
「はい。お世話になりました」


 一之瀬くんが働く最後の日、彼はたくさんの花束を抱えて帰って行った。いつ出国するのかは誰も知らない。聞いてる人もいたけど、彼はうまくはぐらかしていた。わたしは怖くて、彼が本当にいなくなっちゃうって思いたくなくて、聞けなかった。

 そして今日もわたしは残業。最近しなくても大丈夫だったからと油断していた。一之瀬くんが抜けてしまう今、穴埋めをするのはとても大変だということに気づく。


 ヴーヴー


「!!」


 シンとしている職場にわたしの携帯のバイブ音が響く。驚いて、一瞬体がビクッとなった。急いで携帯を持ち、中身を確認する。


<明日、空港に10時>


 一之瀬くんから、いつも通り絵文字も顔文字も何の飾りもないメール。
(本当に、帰っちゃうんだ)

 あれ?まだ下になんかある。スクロールしていくと、

<あんま頑張りすぎるなよ>


<うん。>

 それしか返事できない。















 ピピピピと何かの音がする。昨日は遅くまで残業してたんだから、ゆっくり寝ていたいのに・・・。


(ん・・・?)

「今何時!?9時!?嘘!!!」


 急いで髪の毛を調えて、急いで着替えて、家を出て、走って、タクシつかまえて、「空港まで!」と言った。どうしよう、間に合わないかもしれない。わたしのばかばかばか!なんでこんな時に限って寝坊しちゃうのよ!時間が進むことが嫌に早く感じられる。どうしよう、もう10時になってしまう。


 空港に着いた時、10時5分前だった。うじゃうじゃいる人の波をするりと抜けて、アメリカ行きの搭乗口を探す。そしてまた走る走る走る・・・。

 探してもさがしても、一之瀬くんは見当たらない。あの後ろ姿を、あの髪を、あの人を、見つけなくちゃいけないのに。



「ばーか」
「え」
「遅いんだよ」
「・・・一之瀬くん」


 彼を探すわたしの背中から声が聞こえて、振り向くとそこには一之瀬くんがいた。


「ば、馬鹿って何よ」
「どうせ昨日残業しすぎて、朝起きられなかったんだろ」
「う、うん」
「だから馬鹿って言ってんの」


 相変わらず意地悪だ。
 彼は大きなキャリーバックを転がし、いつもみたいに笑って見せた。


「本当に、帰っちゃうんだね」
「うん」


 そう思うとまた涙が出てきた。だめだって、わたしが泣いたら一之瀬くんに迷惑かけちゃう。目を手で押さえてみるけど、一向に止まらない涙。彼と離れることがこんなにも嫌だなんて。

 ふわ と体に温かい温度。おひさまのにおい。


「一之瀬、くん?」
「待ってて」
「え」
「絶対、戻ってくるから」





 ねぇ、一之瀬くん、それって告白?


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テーマ「人外ファンタジー」
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