「ちゃんと前を見ないと転ぶのだよ」


前をヨタヨタと歩く佐藤に声をかける。振り返って「緑間くん」と俺の名を口にした。あいつの手には段ボールに入った部活で使うであろう道具と言う道具が入っている。こんな大荷物、どうして一人で持とうとするんだか。となりから荷物を取り上げると驚いた顔をされる。


「わたし持てるよ!」
「前見えなくてふらふらしていたのに、か?」
「う、おっしゃる通りで」
「こんな大荷物どうしたんだ?」
「赤司くんに頼まれて」
「赤司に・・・?」


こんな大荷物を?なぜ?佐藤をに好意があるのに、どうしてわざわざこんな仕事を押し付ける?


「真太郎」
「赤司」


そんな顔することないだろうに。


「赤司くん」
「ああ、荷物は真太郎が持ってくれたんだね」
「そうなの」
「ちょうど俺の手が開いたから、俺が手伝おうと思ったんだけど、そうか」


「真太郎が来てくれたんだね」


ああ、そういうことか。






「結衣」


あ、赤司っちがウチのクラスに来た。端っこのクラスから端っこのクラスまで。よくやってくると思う。べつにメールで済ませられるような業務連絡でもこうしてわざわざ訪れるんだから、赤司っちの気持ちなんてとっくの昔に知れている。

赤司っちはきょろきょろと辺りを見回しす。おあいにくさま、本人は今この教室にいない。オレの姿を見つけると「涼太」と呼んだ。


「赤司っちじゃないッスか。どうかしたんスか?」
「結衣はいるか?ちょっと部活のことで伝えたいことがあってね」


そうは言ってもどうせ結衣っちとお喋りしたいだけなのに。素直になってしまえばいいのに。


「・・・赤司っち、そろそろ告ったらどうッスか?」
「告・・・、何?」
「いや、何?じゃなくて」


赤司っちも普通の人間みたいにうろたえたり焦ったりするんだ。珍しいものを見れてオレはにんまりと笑う。そんなオレを見て赤司っちは眉間に皺を寄せて「またあとで来る」と教室を出て行った。
もうばれてるよ、赤司っちの気持ちなんて。本人以外には。





昼寝の場所を探そうと校内をうろついていると面倒臭い奴に出会ってしまった。


「あ!青峰くん!」
「んだよウルセーな」
「うるさいじゃなくて、今サボろうとしてたでしょ!」
「佐藤には関係ねぇだろ」
「関係ある!後で赤司くんにお咎め食らうのは青峰くんだけじゃないんだからね!」


佐藤は俺の耳を引っ張って教室へ連れて行こうとする。教室に行く気のない俺は佐藤に引っ張られるまま歩いた。佐藤の方が背が小さいし、早歩きなもんだから、耳がちぎれそうだ。痛みで涙目になると佐藤は歩くのをぴたっと止めて「赤司くん」と言った。指の力が緩んだことがわかって、急いで佐藤のそばから離れると「大輝」と、赤司に呼ばれた。


「どこへ行く?」
「教室に戻ろうとしてたトコだぜ」
「教室は、そっちじゃないだろう?」


目先の嘘をついてもすぐにばれてしまうのは当たり前なのにでどうして逃げたくなるんだ。


「今わたしが青峰くんを教室に連れて行こうとしたところなんだ。だから安心して」
「ありがとう、結衣」
「ほら、青峰くんいくよ」
「オゥ」


ああ、赤司が睨んでる。佐藤と並んで歩いてるからって、そんなに睨まなくたっていいじゃねーか。


「・・・なんで青峰くん笑ってるの?」
「いや、ちょっと面白くてな」





「あれ〜?結衣ちんなんかめっちゃ旨そうなの持ってるし〜」
「さっき調理実習で作ったんだよね」
「へぇ」


甘ったるい匂いが廊下中に占めていた。結衣ちんの両手にはカップケーキ。調理実習でカップケーキを作った、そういうことだろう。ぐ〜〜とお腹が鳴る。さっきご飯食べたばかりなのにいい匂いがすればお腹が減るのは当然だ。


「ちょーだい」
「え?」
「それ」


俺がカップケーキを指さして言うと、結衣ちんは申し訳なさそうに眉毛をハの字にして「ごめん、これ赤司くんにあげる約束してて」と言った。


「ふぅん。そうなんだー」


そうなんだー。赤ちん、最初からそうやって真正面からぶつかっていけばいいんだよ。





部活の連絡以外で、こんなふうに結衣と会うのは初めてかもしれない。たまたま家庭科室へ向かう結衣と出くわした。それで、カップケーキを作ると聞いたから、「食べてみたいな」と言ったら「じゃあ出来たら赤司くんにあげるよ」と。

部活が始まるまでの間に届けてくれると言われたから、こうして大人しく教室で待っている。荷物はすべて鞄につめたし、あとは部活に行くだけ。


「赤司くん!」


普段と変わらないのに、どうしてだろうね。


「結衣」


どうしてこんなに、嬉しく思うんだろうね。

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