テスト期間で部活禁止期間を迎え、早く帰れることになった俺は彼女と一緒に勉強をすることを思いつき、「俺んちで一緒に勉強しないッスか?」と誘ったところ、彼女は二つ返事で頷いた。内心ガッツポーズの俺は、その後の授業もいつもよりも上機嫌で受けたし、隠していたけれどそんなオーラがダダ漏れだったらしく友達に「なんかいいことあったんだ?」などと言われてしまった。隠しきれないなんてまだまだだな、俺。授業が終わり下校時間が訪れる。俺は素早く荷物をまとめると彼女のクラスへ向かった。「佐藤サン、いる?」とドアの近くに立っていた男子生徒に声をかけた。そいつは「いるよ、佐藤ー彼氏がお迎えだぞー」と大声で彼女を呼んだ。佐藤だと・・・俺はいまだに佐藤“サン”って呼んでるのに・・・。荷物をまとめていた彼女は驚いた顔をしてこっちを見てくる。荷物をがばっと鞄に詰め込むと彼女は小走りで俺のところまで来た。


「・・・」
「お待たせしました」
「行こ」
「うん」


彼女が俺の半歩後ろをついて歩く。隣に並んで歩けばいいのに、俺が速度を落とすと彼女も同じように速度を落として、結局並んで歩くことはできない。少しイライラした俺は振り返って彼女を見た。「・・・なんて顔してるんスか」彼女は眉をハの字にさせて、悲しそうな顔をしていた。


「なんか、怒ってる?黄瀬くん」
「俺が?なんでッスか?」
「怒ってないならいいんだけど」


怒ってはいなかった、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、さっきの男子生徒にやきもちを焼いただけであって彼女に対して怒っていたわけではない。器の小さい俺に対してしっかりしろよと思うところはあったけど。俺が怒っていないことを知った彼女はちゃんと俺の隣に並んで歩きだす。校門の前に彼女を残し、チャリ置き場に行く。俺のチャリの鍵を開錠し、転がして歩く。二ケツするのは楽だけど、先生に見つかったら後々面倒くさいから、学校から離れたところから乗ることにしよう。校門前に行くと彼女は友達と喋っていて、俺のことに気が着いた彼女の友達は手を振って去って行った。


「黄瀬くん」
「お待たせッス」
「さっき友達から聞いたんだけど」
「うん」
「雨降りそう」


そう言って彼女は天を仰ぐ。俺も同じようにすると、ああ確かに。これは雨が降ってきそうだ。今朝の天気予報では晴れの予報だったから俺も彼女も笠は持っていなかった。


「急ごうか」


彼女とのんびり歩くことが結構好きだったんだけど、致し方ない。早歩きで俺の部屋へと向かう。学校から少し離れたところで彼女を後ろに乗せ、チャリを漕ぐ。でもどんどん雲行きは怪しくなってきて、ついには降り出してきてしまった。それはもうすごい勢いで。通り雨だと思うけど、これだけ振りが強かったら全身びしょぬれ間違いなしだ。雨宿りのできそうなところを探しながら家へと向かっているけど、二人揃って雨宿りができるような場所はなく、このまま部屋へ向かうのが最善だと判断した。俺のお腹に回っている彼女の手に一瞬触れて、強くペダルを踏んだ。









彼女を先にアパートの軒下へ連れて行き、そこで雨宿りをさせ、駐輪場へ行きチャリを止める、急いで彼女のもとへ行く。髪の毛からブレザー、果てはスカートまで全身がびしょぬれの彼女が鞄をきゅっと抱きしめて寒そうにしていた。やばい。


「大丈夫ッスか?」
「うん、大丈夫だよ」


彼女は俺を心配させまいとしているのだろう、俺に笑って見せる。逆効果だよそれ。急いで鍵を開けて彼女を部屋に招き入れる。バスタオルを数枚取り出して彼女に手渡す。「ありがとう」と小さく言って彼女はバスタオルで髪の毛を拭いた。自分のことは後回しにしてお風呂にお湯をために行く。このままじゃ風邪ひいちゃう。


「すぐお湯たまるから、そしたら入って」
「黄瀬くん先入って」
「ヤダ。佐藤さん先入って」
「・・・ありがとう」
「ブレザー貸して、ハンガーにかけちゃうから」
「あ、うん」


彼女はブレザーを脱いで俺に渡す。彼女は一枚バスタオルを肩にかけて、もう一枚で体を拭いている。全然拭ききれていない。


「あーあー、こっち来て、俺が髪の毛拭くから」
「黄瀬くんこそ体拭かないと風邪ひいちゃうよ!」
「俺は大丈夫ッス」
「でも・・・」


彼女からタオルを取り上げて髪の毛をわしゃわしゃと拭いてあげる。髪の毛が大方乾いたら次は首、次は・・・・・俺の手が止まった。あの、ブラが透けてます、佐藤さん。彼女はそのことに全然気づきもしない。俺の指先がカッと熱くなって、雨で体が冷えてるはずなのに、どんどん体温は上昇。ついでに心拍数も大変なことに。一向に手が進まない俺のことに気が着いたのか、彼女は首をかしげて俺のことを見てくる。あの、その、上目遣いもやめてもらえませんか、俺、ちょっとイロイロ我慢してるんですけど・・・。


「あ、わたしも拭いてあげるね!」


彼女は自分の肩にかけていたタオルを取ると背伸びをして俺の髪の毛をわしゃわしゃと拭き始めた。ちょ、ちょ、ちょ、ちょ!!!!!!!まずいまずいまずい!これまずいって!佐藤さんの馬鹿!!!タオルがバスタオルで良かった。俺の真っ赤な顔がきっと彼女には見えていないだろうから。


「黄瀬くん?どうかしたの?」


彼女がそう言った後すぐにお湯がたまりきった合図が鳴った。よかった、解放される。


「お風呂、どーぞ」
「あ、ありがとう」


彼女は俺の頭の上にバスタオルを乗せたまま、お風呂場へ向かった。その姿を見届けて俺はドスンと豪快にその場に座り込む。そして長い溜息をついて、「焦ったー」とひとりごちた。あーもー・・・。ブラが透けてるってのは、ちょっと、だめだよ、見えそうで見えないっていうのは、だめだよ。わかってよ、佐藤サン。心拍数が落ち着いてきたところで彼女が着れそうな服を探す。下着は・・・俺の未使用新品なやつでいいか。


俺今日もうまともに勉強できそうにないよ。

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テーマ「人外ファンタジー」
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