目が覚めた。いつもと変わらない時間に眠りについたはずなのに。真夜中に目が覚めた。時計がないから何時なのかはわからない。もう一度眠りにつこうと瞼を閉じてみるけど、一向に睡魔はやってこない。はぁと長い溜息をついて、わたしは起き上がった。廊下に出てみる。月明かりが差し込んで、歩くのに苦労はしなかった。

本丸もずいぶん大きくなったものだ。刀剣達が増えるにつれて増築して、いまでは全部の部屋を掃除するのに数時間かかってしまう。廊下がギッと軋む。空に浮かんだ月を眺めながら、わたしの足は自然と中庭へ向かっていた。縁側から中庭へ出ようとすると、その縁側には先客がいた。


「鶯丸」
「・・・主か。こんな時間にどうかしたのか?」
「鶯丸こそ」
「今日は月が奇麗だったんでな」
「あ、」


その、言葉は。
いや、鶯丸が知っているはずがない。鶯丸の生まれたずっとずっと後、大先生がI love youの日本語訳だと言っていたことを。


「本当に奇麗だね」
「あぁ」
「・・・今日、内番サボってたでしょ」
「見てたのか?」
「うん」
「最近姿が見えないと思っていたが、ちゃんと見ているんだな」
「当たり前だよ。わたし主だもん」
「そうだったな」


刀剣達が増えるにつれて、わたしと刀剣達の距離は少しずつ開いていった。みんなを平等に扱わなくちゃいけない。分け隔たりなく接しなくちゃいけない。そのためには24時間なんて足りるはずがない。

草履をはいて中庭にでる。月明かりが足もとを照らしてくれるが、やはり薄暗い。転ばないように小石を避けて、植えてある花を避けて、わたしは池の近くまできた。月明かりが水面に反射して、キラキラと光った。あいにく鯉は見えない。


「こうやって鶯丸とゆっくりお話しするのもなんだか久しぶりだね」
「そうだな」


積もる話はたくさんあるはずなのに、なぜか話題が浮かんでこない。何を言っても、何かが欠けているような気がしてしまう。


「主は最近どうだ?」
「うーん」


どうって、どうだろう?今までとやることは変わってない。そりゃオエライさんに怒られたり、たまにボーナスでたりしているけど、なにも、変わってないはずなんだ。


「・・・鶯丸と、お茶飲んでないなぁ」


レア太刀なのに、わたしが審神者になって早々にやってきてくれた鶯丸とよくお茶を飲んでいたのに。もうずっとしてない。


「たしかにそうだな」


池のほとりにしゃがんでわたしは池に手を突っ込んだ。水が冷たくて、気持ちが良い。じゃり、と後ろから足音が聞こえて、わたしは頭だけ音の下方向へ向ける。鶯丸がわたしと同じようにしゃがんで、肩と肩がくっつきそうだ。


「なんだ?寂しかったのか?」
「・・・は?」


鶯丸は心なしか嬉しそうに笑って、「寂しかったのか?」ともう一度繰り返した。どうしてわたしが寂しいと思ってると考えたのか、わたしにはわからなくて寂しいという言葉がぐるぐると頭の中で回っている。寂しい?誰が?わたしが?


「・・・寂しくなんか、」


ない まで言えず、わたしは顔をあげた。奇麗なのは月だけじゃない。触れ合う肩が暖かくて、心地いい。


「月が奇麗だね」
「あぁ」
「ねぇ、鶯丸。知ってる?月が奇麗ですねの意味って、」


鶯丸の目が、きらきらしてる。


「もちろん知ってるさ」

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