可もなく不可もなく。わたしに対する評価はそんなものだろう。わたし自身向上心があるわけではなく、たくさん出世したいなんて考えてないし、適当に数年働いて、あわよくば寿退社したいなんて考えている。仕事自体嫌いではない。周りにいる人たちはみんないい人だから働きやすい。だからと言って長くこの会社にいたいとも思えない。なんで生きてるか分からなくなる。

自分で適当に作ったお弁当を早々食べ切り、屋上へ向かった。自社ビル、とはいっても田舎の小さなビル。わたし以外は誰もいないようだ。フェンスに近寄り、辺りを見下ろす。よく見る底からの景色には代わり映えがない。相変わらず緑が多い。田舎とはいえ沢山の人が住んでいて、たくさんの人が生きている。わたしだって生きているのに、生きているって思えない。

仕事もほどほどにやって、何の不満もないのに。


「あれ?」


後ろから声が聞こえて、わたしはゆっくりと振り返った。そこには真波先輩が少し驚いたような顔をして立っている。


「先輩」
「ここで佐藤さんに会うの、珍しいなぁ」
「そうですね」


わたしがここにいるときは誰もいないことがほとんどだったから、先輩もこんなところ来るんだ、って意外に思ってしまった。そんなに背の高くない屋上から見下ろせる景色は、お世辞にも奇麗とは言えない。


「先輩今日は外回りじゃなかったんですか?」
「その予定だったんだけど、先方が急にキャンセルしちゃったから暇になって」
「片付けていただきたい仕事が残ってるので、午後それお願いしますね」
「えー今日はゆっくりしようと思ってたのになぁ」


先輩はヘラっと笑って、わたしの隣に並んだ。そしてフェンスに手をかけるとひらり、とフェンスを乗り越えて、向こう側へ行ってしまった。


「せんぱ・・・!?危ないですよ!」


わたしの胸くらいまでの高さしかないフェンスだからそりゃ簡単に乗り越えられちゃうかもしれないけれど、小さいビルだからそれほど階数ないけれど、だけど、危ない。


「佐藤さん、君は生きてるって思う?」
「え?」
「オレね、今結構生きてるって思えるんだ」
「あぶない、ですよ」
「なんとなく仕事してて、全然ギリギリじゃないんだけど、上司に怒られたり、お客さんに怒られたり、楽しくないこともあるけど、」
「先輩」
「オレ生きてるなぁって」


先輩はフェンスに寄りかかって空を仰いだ。わたしもつられて顔を上げる。今日、こんなにいい天気だったんだ。見下ろしてばかりいたから、全然気づかなかった。


「先輩、わたし生きてます?」
「うん。生きてるよ」
「あはは、先輩も生きてますよ」
「こういうのも悪くないなって、最近思えるようになったんだ」
「どういうことですか?」
「ギリギリじゃなくても、こうやって生を永らえてるのって、悪くないと思うんだ」
「・・・難しいです」
「難しくないよ、簡単なんだ」


太陽の眩しさに目がくらんで、わたしはぎゅっと両目を瞑った。その瞬間、ちゅっと唇に何かが触れたような気がして、ちかちかする目を開くとそこには真波先輩の顔があって、


「佐藤さんが、入社してくれたからかな?」
「それって、どういう」


ことですか と続けようとしたのに、先輩の仕事用の電話が鳴って、先輩は通話ボタンを押した。


「もしもし真波です。いつもお世話になっております。・・・はい、はい。・・・わかりました、では2時にお伺いいたします。はい、失礼します」


電話を切ると先輩はひらりとこちら側に戻って来て、笑った。


「ってことで、午後オレいないから、お仕事手伝えないや。ごめんね」


先輩って、すごくずるい人のような気がする。

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