クソみてーな仕事を終えて、家に帰るとそこは空っぽだった。一緒に住んでるはずの結衣がいない。普段だったら結衣がメシ作って待っていてくれるはずなのに。真っ暗な部屋には誰の気配もなかった。パチンと電気をつけると、テーブルの上に置かれた一枚の紙が、すぐに目に入った。


「家出します。探さないでください。結衣」


いつもの結衣の字。冷蔵庫にご飯あるからあっためてね。とか、そういう置手紙はよく見ていたけど、こんな置手紙は初めてだ。


「エー・・・」


冗談か何かだろうと思った俺は、背広を椅子にかけて、ネクタイを緩めた。腹も減ったし、なんか食いたい。冷蔵庫を開けるとすぐに食べられるものはなかったが、チャーハン位は作れそうだった。ワイシャツの胸ポケットに入ってる煙草を取り出す。ライター、ライター。クッソ、職場に忘れて来ちまった。しょーがない。部屋に置いてあるライター置き場から一つ取り出す。もらったライターとか、マッチがまとめて置いてあるところだ。煙草に火をつけて大きく息を吸い込んだ。換気扇をつけて、吸い込んだ息を吐いた。煙草を消してフライパンを取り出す。


「タマゴ〜タマゴ〜」


冷蔵庫から卵を取り出して、フライパンに落とす。炊飯器に入ったご飯をフライパンに入れて炒めた。醤油と塩コショウで味付けして、簡単な卵チャーハンの出来上がり。さて、もう一本煙草吸ったら食べよう。片隅においたライターを手に取る。


「あ、」


コレ、ラブホのライターじゃん。しかも結衣と行ったことないトコのやつ。もしかして結衣、コレ見てなんか勘違いした?ほかほかのチャーハン片手に、ヒヤーっとしてくる。あれは冗談でもなんでもなくて、本気だったんだ。


「マァジカヨ・・・」


チャーハン食ってる場合じゃネェ。慌ててスマホ掴んで結衣に電話をかける。喉がカラカラだ。しばらくすると、初期設定のまま変えていないあの着信音が、この部屋のどこからか聞こえてきた。もしかしてアイツ、電話置いてったとか・・・?スマホを耳にくっつけたまま、どこから鳴っているか探す。風呂場にいってもトイレに行ってもリビングにもどこにも見当たらない。最後に残るは寝室だけ。ドアを開けるとさっきよりも着信音が大きく聞こえるような気がする。ベッドの下、布団の中、本棚。どこにも見当たらない。でも確実にこの部屋のどこからか聞こえているような気がする。


「どこだよ」


後、見ていないところは、「クローゼット?」意を決して戸をあけると冬物の服をを奥に追いやって、空いたスペースに身を小さくして座り込んでいる結衣がいた。手には鳴りっぱなしのスマートフォン。俺は電話を切って、結衣が何か言うかと待っている。


「・・・おなかすいた」
「チャーハン食べる?」
「・・・食べる」
「あの、ライター、サァ」
「ききたくない」
「聞いて」
「やだ」
「あれは、職場でライター切れた時、先輩がくれたヤツで、なんもやましいことねーカラ」
「・・・」
「分かったァ?」
「・・・うん」


本当に分かったのか、分かってないのか、心配なところではある。結衣は目を擦って、俺の方へ手を伸ばした。その手を掴んで引っ張って立ち上がらせると勢いそのまま、俺の腕の中に飛び込んでくる。勢いを殺せなかった俺は床の上にドスンと尻もちをついてしまう。結衣は俺の首元に顔をうずめて、のしかかったまま動こうとしない。両手を結衣の背中に回してぽんぽんと撫でてやる。


「ヤスくん」
「おう」
「ヤスくん」
「なに?」
「ヤスくん」


結衣の息が耳にかかってくすぐったい。
仕事の後で疲れてるとか、チャーハンが冷めてしまうこととか、一気にどうでもよくなってしまうくらい、あー


「俺すげー好きだわ、結衣のこと」

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -