白澤様はキスをするたびにわたしを褒めてくれる。
「肌がきれいだね」とか「可愛いよ」とか「色っぽいね」とか。
言われるわたしはまんざらでもなく、嬉しくなってしまう。白澤様は罪な男だ。
思ってないことをさも思っているかのように言うことができる。

なんてずるい男なんだ。

ベッドに横になって、白澤様に腕枕をしてもらう。
白澤様の体温はちゃんとあたたかくて、ここにいるって、感じられるのに。
どうしてかな、どうしてこんなに遠くに感じるんだろう。
白澤様の心臓の音が トクトク と同じスピードで脈打っている。
それよりも速いスピードでわたしの心臓は脈打ってるけど、白澤様に聞こえているだろうか。

汗で少しべたつく頬にキスをねだると白澤様はわたしの髪の毛を撫でながらキスをしてくれる。


「髪の毛さらさらだね」


白澤様と一緒にいるために磨いてきた自分が褒められていて、嬉しくないはずないのに。
なんでかな、褒められているのに、最近嬉しくなくなってきている。
やさしいやさしい白澤様のことだから、わたしのことを悪く言わないし、邪険に扱ったりしない。

でももうそんなやさしいやさしい白澤様 いらない。

わたしの頭を抱えていた白澤様の腕を外して、白澤様の体から離れた。
ベッドから降りて、床に散らばった服を手に取った。


「シャワー?」


勘の鋭い白澤様なのに、そんなこと聞くなんて可笑しいね。


「帰る」
「えっ!」


帰ってシャワー浴びて、白澤様の香り、ぜんぶぜんぶ、洗い流さなくちゃ。


「もう、二度と来ない」


白澤様の顔を見ないで言う。
パンツはいて、ブラジャーつけて、適当に羽織ってきた服に袖を通す。
ほら、わたしが別れの言葉を言っても白澤様は何も返してこないんだもん、わたしってその程度の女だったってことだよ。
わかってた、けど、こうして目の当たりにするとやっぱり辛いなぁ。


「白澤様 さようなら」


最後くらいは、と白澤様がいるベッドの方を向くと、白澤様もいつの間にか服を着終わっていて、「送るよ」とわたしの肩を抱いた。


「え、やめてよ」
「どうして?」
「どうしてって」


わたしは白澤様と決別しようとしているのに。
そんな行動を取る白澤様が どうして だよ。


「さよならなんて悲しいこと言わないで」


わたしと白澤様の関係は、恋人とは言えない。
好きだとか愛してるだとか、一度も口にしたことない。
それなのにそんなことをわたしに言うなんて、なんてひどい男なんだろう。


ああ そうか。


「白澤様、寂しがり屋ですか」
「そう見える?」
「今のわたしには」
「じゃあきっとそうなんだろうね」


都合のいい女、なんてなりたくないと思ってた。


「ねえ、僕を都合のいい男にしてよ」


セックスしたいときだけに呼ばれる、そんな女になんてなりたくないと思ってた。


「それで君のそばにいられるなら」


それって なんの告白ですか。白澤様。


「僕を都合のいい男にして」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -