高尾くんにキスをされた。拒まなかったわたしもわたしだけど、キスしてきた高尾くんも高尾くんだと思う。付き合ってほしいなんて言われてない。突然キスをされただけ。


「目にゴミが入った」って目を擦った結衣が「とれない痛い」って泣きそうな顔をした。それじゃあ俺が「見せてみ」って言ったら潤んだ瞳で俺の目を見つめるから、たまらなくなって、キスをした。



じわじわと涙が目に溜まっていくのが分かる。目に入ったゴミもどこに行ったか分からないくらいだ。今、目を閉じたら涙が絶対こぼれてしまう。泣いたらだめだ。


キスをした途端結衣の目がどんどん涙で埋まっていって、俺のことを穴が開くくらい見ている。俺からのキスがそんなに嬉しかったのか。もうなんて可愛いんだ、可愛すぎる。その涙を親指で拭ってやると結衣は俺のブレザーの裾を掴んだ。


なんで高尾くんがそう言う行動を取るのか、全くもって分からない。高尾くんはそうなの?好きじゃない女の子に簡単にキス出来ちゃうものなの?好きじゃない女の子の涙を、簡単に拭えるの?もしそうだとしたら、わたしはなんて不幸なんだ。どうしてこんなに不幸なんだ。わたしがいけないのか 高尾くんがいけないのか。


結衣の手が、小刻みに震えていた。その震えを止めようと思って、手を握る。ビク、と肩を強張らせた結衣は視線を落として、泣いた。さっきまで俺とキスして嬉しくて泣いたんだ、なんて思っていたけど、そうじゃなかったことを知る。恋をしてしまうと、何かを見落としがちになってしまう。自分の洞察力は優れているもんだと思っていたのに、何もわかっちゃいなかった。


「ワリ、嫌だった?」わたしの頭の上で高尾くんの声が響く。嫌じゃなかった、むしろ嬉しかった。でも高尾くんの気持ちが見えなくて、とても苦しかったんだ。高尾くんに拭われたはずの涙が粒となってこぼれる。ぽたぽたと廊下に落ちる涙がこの上なく腹立たしい。いつまでうじうじしていても、何も変わらないのに。


結衣は何も言わない。顔が見えないから、何考えてるのかさっぱり読めない。むしろ読もうとしない方がいいんじゃないのか。結衣が俺のことを好きだってことは、ずっと前から分かっていた。俺も結衣が好きだって、きっと知っているはずなのに。・・・ああ、そうじゃないのか。


「俺、結衣のことが好きだよ」聞いたことない、優しすぎる声で高尾くんが独り言のように言った。その途端、涙が一瞬にして引っ込んで、またさっきみたいにまじまじと高尾くんを見つめてしまった。


目ん玉落っこちてきそうなほど、結衣は目を見開いて俺のことを見る。目が合うとまた結衣は瞳をじわじわと滲ませた。困らせたかったわけじゃない、俺が勝手に暴走してしまっただけ。



「わ、わたしも」視界がぼやけて、高尾くんの顔が見えなくなっていく。それからわたしがわあわあと泣きだすまでに、時間はかからなかった。


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