居酒屋の一店員であるわたしは何やら一度に二人の殿方から好かれてしまったらしい。今日もカウンターでお酒を作っていると鬼灯様がやって来て、わたしの目の前に座った。


「冷酒いただけますか」
「あれ、ボトルのお酒じゃなくていいんですか?」
「ええ、今日は冷たい日本酒が飲みたい気分なんです」
「暑いですもんね、今日。冷たいお酒飲みたくなるのわかります」
「結衣さんは日本酒もいけるんですか?」
「たしなむ程度には」


冷蔵庫から良く冷えた二合瓶を取り出す。お通しと一緒に鬼灯様の前に置いて、おちょこに冷酒を注いだ。冷酒をぐい、と飲み干すと、鬼灯様は少しだけ頬緩ませて「美味しいですね」と言った。最近はビアガーデンがはやっているらしく、ここに来てくれるお客さんはめっきり減ってしまった。下界は今夏だから、それに合わせて地獄でもビアガーデンなんてものをしているらしい。下界のビアガーデンシーズンが終わったら地獄でも終わるはずだから、そうしたらお客さん戻って来てくれるはず。そんなことを信じながらがらんとした店の番をする。がらがらな店でもやって来てくれる人はちらほらいる。

たとえば、

「結衣ちゃーん!友達連れてきたよー!」


白澤様とかも。

両手両脇に女の子をたくさん並べて白澤様はやってきた。声を聞くなり鬼灯様は眉間に皺を寄せる。ズッと冷酒を啜って鬼灯様は傍らに置いていた金棒を手にした。


「邪魔しに来たんですか?邪魔しに来たんですね?」


そう言って詰め寄って行く鬼灯様だったが、白澤様も引くことなく「そーだよ邪魔しに来たんだ、君と二人っきりにしておくと結衣ちゃんの身が危険だからね!」と言った。


「あなたと二人きりの方が結衣さんは危険だと思いますがね」
「僕が結衣ちゃんに痛い思いさせるとでも?女の子を傷つけるなんて僕がするとでも?」


鬼灯様と白澤様がいがみ合っていると、白澤様がつれてきた女の子はコソコソと話あって、白澤様に気がつかれないようにそろそろと帰って行った。あーお客さんちょっと減っちゃったな。ヒートアップしてきた二人をなだめるように、「まぁまぁ白澤様も一杯飲んで落ち着いてください。鬼灯さまも冷酒が温くなってしまいますよ」と言うと、二人は一つ席を開けて座った。


「結衣ちゃん、紹興酒ちょうだい」
「はい、少々お待ちくださいね」
「今日暑いからロックで」
「ロックですね」


丸く削った氷をロックグラスに入れて、紹興酒を注ぐ。白澤様はうっとりした表情でお酒を見つめた。お通しと一緒に白澤様の目の前に置くと、「結衣ちゃんのお酒を注ぐ手ってセクシーだよねー」なんて言う。


「結衣さんをそんな卑猥な目で見ないでくれますか?」
「なにそれ!セクシーは褒め言葉だよ!?」
「そうだとしてもです、口を開けばそんな言葉ばかり言うあなたが言ったところで信ぴょう性はありません」
「でも結衣ちゃんのお酒を注ぐ時の手は間違いなくセクシーだよ」
「一理あります」


二人を見ていると仲が良いんだか悪いんだか、気が合うんだか合わないんだか、わからないな。


「じゃあお酒注いでない時のわたしの手はセクシーじゃないんですか?」


意地悪で言ってみると、二人はわたしの手を握って「そんなことありません!」「そんなことないよ!」と全力で否定してくれるものだから、こんな風にされるのも悪くないな、なんて、ずるいわたしは思ってしまう。思わずハモってしまった何も言わずに睨み合っているけど、わたしが「もう!」なんて言うと睨み合うのをやめるから、なんか二人よりも上に立っている気分。


「ねぇいつになったら僕とデートしてくれるの?」
「え!?」
「結衣ちゃんに地獄を案内してもらいたいな〜」
「地獄の案内なら私にもできますよ」
「そうですよ、鬼灯様の方が詳しいから鬼灯様に案内してもらったらどうですか?」
「まあ地面にのめり込む程頭を下げるなら案内してあげてもいいですけど」
「だーれーが!お前なんかに案内してもらうかって言うんだ!結衣ちゃんに手取り足とり優しく案内してもらわなくちゃ意味ないんだよーだ」
「結衣さんこの男の頭の中は善からぬ妄想で満たされていますから甘い口車に乗ったりしたらいけませんよ」
「ちょっと結衣ちゃんに変なこと吹き込まないでくれる!?」
「あはは・・」


こうやって二人がいがみ合ってるのを見てるの、楽しいんだけどな。
もうしばらくこのままの状態でいることを望んだら、ばちがあたりますか。

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