花宮くんが怒った。(多分)
理由は分からない。隣にいるとひしひしと伝わる花宮くんの苛立ち。「何があったの?」と聞いていも当然答えてくれるわけがなく・・・。


「お腹痛い?」
「痛くねェ」
「頭痛い?」
「痛くねェ」
「お腹すいた?」
「さっき昼飯食ったばっかだろ」
「そーだよねー」


花宮くんの苛立つ原因、見当もつかない。さっぱりわからない。椅子に座って頬杖手付いて、眉間に皺を寄せている花宮くんは、それはそれで似合ってるポーズなんだけど。ずっと苛々されていても困る。部活が始まるまでになんとかしないと・・・ぜったい部員の人たちに八つ当たりしそう。わたしは妙な正義感を胸に花宮くんに色々聞いてみる。「甘いもの食べたい?」「いらねェ」「なんか飲む?」「いらねェ」「あ、宿題してくるの忘れたとか」「忘れてねェ」「さすが優等生」「おちょくんな」「すみませんでした」「寝不足」「少しな」「少しだけじゃイライラの原因にはならないよねぇ」「苛々してねェ」「そういうことはね、眉間のしわをなくしてから言いなさい」「誰のせいでこんな風になったと思ってンだよ」「え、誰のせいなの教えて」「・・・・」「なんでそこで黙るの!」


わたしが少し声を荒げると、花宮くんは「バーカ!!」と言って立ち上がってどこかへ行ってしまった。


あー、やってしまった。


喧嘩はよくする方だと思う。苛々の原因は何であれ、今の花宮くんを怒らせたのは、わたしだ。追いかけなくちゃ。立ち上がって教室を出ると、廊下の先に花宮くんの背中を見つけた。走って追いかけると花宮くんはわたしの足音に気がついたのか、歩くスピードを速めた。走っているわたしから早歩きで逃げられると思うなよ・・・!
背の高い花宮くんにおんぶされる勢いで飛びかかる。花宮くんは猫背だから、いつだっておんぶ出来る体制なんだよ。わたしの全体重を背負いたくなかったら猫背を直すんだな!

とかそんなこと考えている場合じゃなくて!


「ごめん!今のはわたしが悪かった!しつこくして本当にごめん!」


矢継ぎ早に言うと花宮くんは大きく息を吐いて言った。


「お前サァ、昨日隣のクラスの奴に告られたんだってな」
「へ!?告!?」
「わかってねェのかよ」


花宮くんの背中で昨日のことについてぼやぼや〜っと思い返してみる。


「あーっと・・・隣のクラスの人?に花宮と付き合ってなかったらうんたからかんたらとは言われたけど、それ告白じゃないよね?」
「つまり俺がいなかったらお前正式に告られてたってことだろ」
「まーさかー」
「もういい」
「うん、もう良いよねその話」
「お前からもういいとか言われるとなんかハラタツ」
「え、だって実際どうでもよくない?わたし花宮くんが好きなわけだし」
「!!!!」
「だから別に告白されたってどうでもいいよ、そんなん」
「バッカ、ここどこだか分かってんのか」
「学校の廊下」


よくよく思い返してみたら確かに隣のクラスの人に変なこと言われたけど、わたし自身すっかり忘れていた。花宮くんがわざわざそれを気にして苛々していたって言うのが面白くて、笑ってしまいそうになるけれど、本当にどうだっていい問題なんだよ。そんなことで片付けられちゃう問題なんだ。


「もう機嫌直った?」
「あー直った、直ったからさっさと降りろ」
「はーい」


花宮くんの背中からぴょい、と降りると花宮くんは自分の肩を揉んで「あー重かった」と意地悪そうに言った。ムカツクヤツ。そんな意地悪なこと言っても花宮くんがわたしのことが大好きだってことは、バレバレなんだからね。

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