最近妙に及川に後をつけられている気がする。昨日もそうだし、その前も。結局わたしがなんとか学校にいるときに巻いて、逃げるように帰っているのだけれど。今日の及川は一味違うのか、いつもみたいに巻くことができない。さっきから追いかけっこのようにずっと二人で校内を練り歩いている。主に早歩きで。


「待ってってば〜」
「いやだ」
「歩くの速いって〜」
「及川が歩くの遅いんじゃないの?」
「佐藤チャンが歩くの速いんだって!」


わたしがピタッと立ち止まると、慣性の法則で立ち止まれなかった及川がわたしの体に衝突してきた。その勢いで前につんのめってしまい、わたしは膝をじゃり、と廊下に擦ってしまった。うう、痛い。ぜったいこれヒリヒリするやつだ。
振り返ってキッと睨んでやると及川は顔を真っ赤にして口元を歪ませている。なにその顔、わたしのこと馬鹿にしてんの・・・?


「佐藤チャン・・・ぱんつみえてる」
「!! ドへんたい!!!!」


立ち上がってグーパンチをお見舞いしてやる。わたしのパンチは見事に及川のほっぺにヒットした。咄嗟のこととはいえ人を殴ってしまった・・・。はっとして及川に「ごめん」と謝ろうとすると、及川は殴られた側のほっぺをさすって、嬉しそうな顔して笑っている。痛いの痛くないのどっちなの。と言うか殴られたくせに笑っているとかどういうことなの。


「佐藤チャンの愛の鉄拳・・・!」
「これに懲りたらもう二度とついてこないでよね」
「それは約束できないなぁ」


謝る気もすっかり失せてしまったわたしは再び廊下を歩き出す。放課後に入って早15分。何がしたいのか及川はわたしの後ろをついて歩いていた。立ち止まってしまったら何か起きそうで怖い。わたしは延々と校内を歩き続けていた。


「何かわたしに用なの?」
「うん」
「じゃあなに?早く要件済ませてほしいんだけど」


これ以上後をついて回られるのは困る。家がばれてしまったらどんな攻撃を喰らうか分かったものじゃないし。


「ええ!?ここで言えと!?」
「うん、早く要件言って」


わたしがそう言うと及川は急に落ち着きがなくなって、ぼそぼそと「ここじゃ誰が見てるか分からないし・・・」とか「いやでもこんなチャンスもう二度とないかもしれないし」とか独り言をつぶやいていた。わたしはいい加減呆れてしまって、置いて帰ろうかと思った。


「な、中庭いかない・・・?」
「なんで中庭行かなきゃいけないの」
「だってここだと人通り多いし」
「人がいたらまずい話なの?」
「まずい話なの」


及川は真剣な顔をする。さっきまでずっとわたしの後ろを練り歩いていたのに、今更周りの目なんて気にするの?及川って何なの?ヘタレなの?人通り多いって言ったって中庭にだってそれなりに人はいるのに。何が違うの廊下の何がダメなの。
何も言いださない及川にだんだんと苛立ってくる。真剣な顔した及川は、眉間のしわを減らして少しだけ明るい表情をして、わたしの手を握った。


「ちょ、ちょっと!」


さっき歩いていたペースよりも速く及川は歩いて、そのスピードについていけないわたしは小走りになってしまう。及川はずんずんと歩いて行って、わたしは何とかその後ろをつんのめりながら歩く。どこ向かっているのかさっぱりだ。そろそろ放課後に入って20分は経過しそうだ。ああバス一本逃した。


「このまま聞いていてくれる?」
「なに」
「俺、佐藤チャンのこと好きなんだ」

「・・・人に好意を伝えるときくらい、ちゃんとその人のこと見て言ったら?」
「佐藤チャンの顔見ながら話せないよ、緊張しすぎて無理」
「及川って実はヘタレだったんだね」
「ヘタレじゃない」
「そんな見栄張らなくていいよ」


告白されているはずなのに、わたしはどこか自分のことを客観的に見ていて、特に恥ずかしく思ったりしていなかった。他人事のように感じていた、のに。


「見栄なんて張ってないよ」


及川がぴたっと立ち止まって振り返る。及川がわたしにしたみたいに、わたしも急に立ち止まることができずに、及川の胸の中へ飛び込んでしまう。


「好きだよ、佐藤チャン」


なんだ、ちゃんと目を見て言えるんじゃないか。
中庭じゃなくてもさ。

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