あー可愛いなチクショー。

なんて思っても言えないけど。


両手でハンバーガーを持って頬張っている姿は、小動物みたいだ。思わず口元が歪んでしまう。隠すようにストローに口をつけて、中身のコーラを啜った。炭酸が舌と喉を刺激してピリピリする。俺の彼女は、俺の口元が歪んでいることにも気づかずに一生懸命ハンバーガーを頬張っている。リスかよ。


「花宮くんお腹すいてない?大丈夫?」
「腹減ってねェからいいんだよ」
「一口いる?」
「いらねェ」
「そっか。じゃあわたしが食べるね!」


あああああああ
断ってなかったら間接キスできたのに俺は馬鹿か。俺は馬鹿だ。間接キスとか・・・恥ずかしくて耐えられる気がしない。それなのにサラッと佐藤は「一口いる?」とか聞いてくるんだ。何考えてんだコイツ。
それにしても良く食べんなぁ。俺も佐藤も部活後で腹が空いているとは言え、この後家に帰ってもまた晩御飯食べるんだろ。育ち盛りだから良いのか。そうか、いいのか。確かに胸とかでかくなったような・・・って何考えてんだ俺落ち着け。夏服になったからそういう変化が分かりやすくなった。
あー腹減った。なんで俺コーラとポテトしか頼んでねェんだろ。しなしなし始めたポテトを一つつまんで食べる。しなしなしたポテトも悪くないと思う。


「ねぇ・・・花宮くん」


だーかーらー
なんでそうやって上目遣いで俺のこと呼ぶんだよなんなんだよコイツ。照り焼きソースのせいか唇が妙につやつやしてて色っぽいんだけどなんなの。冷静保とうとする俺が馬鹿みたいじゃねェか。


「なんだよ」
「そのう・・・ポテトちょっともらってもいい?」
「はいはい、ポテトね」
「やったー!」


ポテトを一つつまんで ん と佐藤に向けると、あろうことか佐藤はそのままパクンと食べた。ポテトを受け取るんじゃなくて、そのまま食べやがった。


「しなしなしたポテトもたまらないねー」
「そう、かよ」


つまり俺は佐藤にあーんをしたこととなる。
バカップルかよ・・・こんなところ部の奴らに見られたら・・・。

変な汗をじわりとかき始めた。冷静さを取り戻すために窓の外を見ると、信号待ちしている学生が目に入った。・・・どっかで見たことのあるような・・・。


「き よし・・・」


俺がそうつぶやくと、店内と店外で聞こえるはずがないのに、木吉は野生の勘か何かを駆使して気づいてみせた。そして俺の方を向いて、俺の目の前に座っている佐藤のことを見つけ、にやっと笑う。一番見られたくない奴に、佐藤と二人でいるところを見られたような気がした。


クソが。


「花宮くん?どうかした?」
「いや、なんでもねェ」
「そう?ねね、もう一本ポテトちょうだい!」
「もう一本?」


もう一度外を見る。もう信号は青色に変わっていて、木吉の姿はなかった。ならいいだろう。
ポテトをひとつつまんで佐藤に向けるとさっきと同じように食べてみせた。恥ずかしくねェのかコイツ。


「美味しいね、花宮くん」
「そーだな。いつの間に照り焼きバーガー食べ終わったんだ?」
「花宮くんが外を見てる間にかな?」
「・・・ソース口元付いてる」
「え、どこどこ」


佐藤はぺろんと舌で口の周りを舐めるが、ソースで汚れたところまではとどかない。つーか舌で舐めとるな、エロい。


「ここ」


指で佐藤の頬を拭いてやる。

なーにやってんだ俺は、バカップルか。バカップルだ。
別に指で拭かなくても紙ナプキンで拭いてやるとか選択肢は山ほどあったのに、なぜ指を選択した俺。


「ありがと!」


ま、いいか。
佐藤もなんだか満足げだし。

そして俺は佐藤のはるか向こう側、カウンターに並んだ木吉の姿を見つけるんだ。にやーとだらしなく笑った木吉の顔を、俺は一生忘れることはないだろう。

ストローを思いっきり吸う。
ズズ、と大きな音を立てて空っぽになった。

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