俺の誕生日は梅雨のど真ん中で、毎年のことのように雨が降る。せっかくの誕生日だから雨なんて降らなくても、と思っていたけど、彼女と出会ってから雨だって悪くもないかも、なんて思うようになった。


朝一番に彼女に「誕生日おめでとう!」を言われて、プレゼントを渡される。俺がいつかほしいと言っていたショップのTシャツで、彼女は「これからの季節に着てもらえたらなって!」と笑った。「ありがとう」と答えると、彼女は満足げに頷いた。

外は朝からずっと雨が降り続いていて、彼女は「せっかくの誕生日なのにね」と眉を下げる。


「佐藤サンは雨、嫌いッスか?」
「そういうわけじゃないんだけど、雨降った後って涼しい風吹くし」
「俺、最近割と好きなんスよ」
「そうなの?」
「そうなの」


彼女は首をかしげて、外の重そうな雨を見つめた。


「今日、一緒に帰らないッスか?」
「部活は?」
「まさかのオフ」
「おー!じゃあどっか寄って帰ろう」
「うん。そうしよ」


ずっと未来に約束することよりも、目の前の約束を大事にしたいと思う。授業が終わって彼女と一緒に昇降口へ向かう。こうやって二人で並んで歩くことにも慣れてきて、付き合いたての頃は二人で並んで歩くだけでざわざわしていたのに、もうそんなことはなくなった。俺の隣をビクビクしながら歩く彼女はいない。頼もしいなぁ。

今日は目が覚めたときからずっと雨が降っていた。帰る時刻になった今も降り続いている。俺が生まれた時も、こんな風に雨が降り続いていたのだろうか。


「あ、俺傘教室に忘れちゃったッス」
「え!とり行く?」
「いいや」
「なんで?」


傘を教室に忘れたのは、わざとだよ、佐藤サン。


「だって佐藤サン、傘持ってきてるでしょ?」
「うん。あるよ」
「じゃ、相合傘して帰ろ」
「わたしの傘そんな大きくないよ」
「だいじょうぶだいじょうぶ」


そのぶん佐藤サンとくっつけるじゃないか。
こんな口実作りたくなってしまうくらい、好きだよ、佐藤サン。こんな口実作れてしまうから、雨だって嫌いじゃなくなってきたんだ。


「じゃあ、そうしよっか」
「俺が傘持つッス」
「ありがとう」
「俺の方こそ、ありがとう」


いつもいつもありがとう。


「これくらいお安い御用だよ」


傘を貸してくれたことじゃなくて、


俺の世界に 色を取り戻してくれてありがとう。


「どこ寄って帰る?」
「誕生日ケーキ食べたいッス」
「それじゃあカフェでも寄って帰ろうか」
「うん」
「黄瀬くん?なんか今日元気ない?」
「そんなことないッスよ」
「そう?じゃあ気のせいかな」


難しいことばかり考えているような気がする。誕生日のせいなのか、雨のせいなのか、それとも近くに彼女がいるからなのか。これから先も彼女と一緒にいたいと思う。だけどそんな約束はできないし、したくない。明日のことでさえあやふやなのに。ずっと先のことなんて約束できっこない。
でももし、彼女が俺とこれから先も一緒にいたいって考えてくれているのなら。


「来年の今頃何してるんスかね、俺達」
「どうだろうねぇ。こんな風に二人で雨の中歩いてるといいなぁ」
「雨の中?」
「うん。黄瀬くんがまた傘忘れて、わたしと相合傘して帰るの」
「・・・」
「いいなぁ、そういうの」
「そうッスね」


ずっと先の未来のこと、約束してもいいのかもしれない。

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