妙に疲れてしまって早寝をしたわたしは、夜中喉が渇いて目が覚めた。炭酸ジュースが飲みたい。暗闇に慣れていない目で冷蔵庫を目指した。電気をつければいいだけの話なのに電気をつけないのは、今のこの目に眩しいものは毒だから。なんとか台所にたどりつき、パカ、と冷蔵庫を開く。期待はしてなかったからね、がっかりしてないよ、うん。冷蔵庫に炭酸飲料は何一つなかった。やれやれ仕方ない。寝巻きから楽な格好に着替え、貯金箱から小銭を数百円取り出した。ポケットにお金を入れて、そっと家のドアを開ける。コンビニ行かなくちゃ。

夜中の一時。住宅街のここはすっかりと静まり返っている。すぐ近くのコンビニまで歩いて五分とかからない。夜中に出歩くことは怖くない。危ないからやめなさい、と言われるけれど、ばれなかったらそれはしていないことと一緒だ。なんて考えているわたしはちょっと素行の悪いにんげん なのかもしれない。お天道さまは見ているというけれど、今は夜だから月しか見えないし、だから内緒にしていてね。

小走りでコンビニまで行く。気の抜ける入店音楽を聴きながらはいると、いつも夜中にいる店員さんがいた。じゅーすじゅーす。普通のコーラに手を伸ばしてから一瞬考え、カロリーオフのコーラを手に取った。夜中だし、ね。店内はがらんとしていて誰もいなかった。さっさと帰ろう。コーラをレジに置くと、気の抜けた入店音楽が鳴った。


「あ」
「あれ、佐藤さんじゃないッスか」
「黄瀬くん」


同じクラスの黄瀬くんが入ってきた。


「こんばんは」
「どうも」
「こんなとこで会うなんて奇遇ッスねぇ」
「そうだね」


ちょうどのお金ないや、税金上がったからなんか中途半端になったよね、税込み価格。小銭をコインターに置くと、黄瀬くんはわたしの隣に並んだ。ここのコンビニ良く来るのかな。やけに並ぶのはやかった気がする。カウンターにはバスケの雑誌に炭酸水。お釣りを受け取って、帰ろうとすると、お金を払っている最中の黄瀬くんに呼びとめられた。「ちょ、待って!」はやくコーラ飲みたいんだけどな。でもま、蒸し暑い外に出るよりは、ここで待っていた方が良いか。お金のやり取りを終わらせた黄瀬くんを見届けて外に出るとすぐに黄瀬くんはやってきた。


「夜遅くに女の子一人は危ないッスよ。送って行くから一緒に帰ろ」
「え、いいよ。すぐ近くだし」
「どれくらい?」
「五分くらい」
「それは近いッスね」
「でしょ。だから大丈夫だよ」
「じゃあこうしよ、俺の散歩に付き合って?」


黄瀬くんがもてるの、分かる気がする。そうまで言われて断るような、可愛くない女になりたくはない、わたしは渋々ながらそのお誘いに乗ることにした。そしてやる気のない格好でいることを少しだけ後悔した。黄瀬くんはちゃんとお洒落をしていて、『ちょっとコンビニ行ってくる』なんて格好ではない。


「佐藤さんちってここら辺だったんスねぇ」
「うん。黄瀬くんの家は?」
「ここからもうちょっと行ったとこッス」
「ふうん」
「さっきまで寝てたんスか?」
「そうだけど、なんでわかったの」
「いや、ちょっと寝ぐせついてるから」
「え、まじ?」
「うん、ちょっとだけッスけど」
「じゃあいいや」
「いつもこんな時間に出歩いたりするんスか?」
「たまにね。そういう黄瀬くんは?」
「さっきまで人と会ってて、その帰りッス」
「こんな時間まで遊んでたなんて不良だ」
「佐藤さんに言われたくないッスよ〜」


黄瀬くんはよく喋る。つられてわたしも喋ってしまって、コーラを飲むことをすっかり忘れていた。まだ少し冷たさを残すコーラを口に含む。あー炭酸美味しいなぁ。黄瀬くんが静かになった。そう思って横を見たら黄瀬くんも飲み物を飲んでいて、そりゃああれだけ喋ってたら喉も渇くよね。ごくごくと喉仏が動いているのが見える。隣に並んでなかったら、きっと黄瀬くんの喉仏がうごくところ、見れなかっただろう。


「ん?なんスか?」
「家通り過ぎちゃった」
「え!?」
「まあいっか。もう一周散歩しませんか」
「そうッスね」


喉仏見てたから、自分の家通り過ぎたことにも気がつかなかった、なんて伝えてしまったら、黄瀬くんはどんな顔するのかな。


「コーラ美味しい?」
「うん。ちょっとぬるくなったけど」
「飲みたいなー」
「黄瀬くん炭酸水買ったじゃん」
「炭酸水とコーラは別物ッスよ」
「まあそうね」
「一口」
「ぬるいコーラでもいい?」
「しかたないからそれで我慢するッス」
「なぁんかエラソウだなぁ」
「ひとくちください」


もう一周と言わずもう三周くらい、お散歩しませんか。

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