友達に言われた。「早いとこセックスしないと旦那、浮気するよ」
いやいや鉄朗に限ってそんなことはない、 よねぇ?


あちーあちー言いながら鉄朗は帰ってきた。背広をぽーいとわたしに放り投げて自分はお風呂場へ直行。服を脱ぎながら廊下を歩くことはやめていただきたい。服をひとつひとつ拾い上げて洗うものは洗濯機に入れて、ハンガーに掛けるものはハンガーにかける。鉄朗のパンツ一丁姿は見慣れたけど、素っ裸は見たことないなぁ、なんて、鉄朗の引き締まった背中を見ながら思った。全然変わってない。わたしは?お腹の肉をぷに、とつまんで溜息をついた。

鉄朗は仕事が終わったらだいたいまっすぐ帰ってくるし、誰かと飲んでから帰るときはちゃんと連絡くれる。浮気なんてしてない、そう思うのに。友達から言われた一言が、喉に刺さった魚の小骨みたいにひっかかっていて気になる。キャバクラならまだ許す。風俗も、まあ許そう。でも、どこかのだれかと、恋とか愛とか絡めたセックスをしていたら、それは許せない。・・・セックスをさせないわたしが悪いのかもしれない、そんなこと考えだしたらもう止まらない。自堕落な生活を送っているわけではない。わたしだってまだ仕事を続けているし、だらだらと過ごしているわけではない。それでも若い時に比べたらあちこちにお肉はついてしまったし、そんな体を見せるのも恥ずかしいし、でもそのこと以上に浮気される方がずっとずっと嫌だし・・・。

同じことをずっとぐるぐると考えてしまう。
結論なんて前から分かっているのに、目を逸らしたくて仕方ない。
そんなわたしにも、腹を決めなくちゃいけないときがやってきたんだ。

鉄朗がお風呂に入った後の脱衣所で、一枚一枚服を脱いで、バスタオルをぐるっと体に巻きつけた。お風呂の電気をぱちんと消すと中から「うぉぉお!?」と鉄朗が驚いた声を出す。真っ暗になったお風呂場のドアを開けて、「湯加減 いかがですか」なんて言いながら入る。廊下の光が少しお風呂場に漏れて、暗がりだけど、鉄朗の顔が見えた。気の抜けたようなぽかーんとした表情の鉄朗はなんだかおかしくて、笑ってしまう。


「え、結衣、お前、なにして」
「おじゃましまーす」


ざば、と掛け湯を浴びて、バスタオルそのまま狭い湯船に体をつける。二人でお風呂入るなんて考えてもいなかったから、わたしが湯につかるとせっかく溜めたお湯が流れ出てしまった。でかい図体した鉄朗が膝を抱えて小さくなって、わたしと向かい合わせに湯船につかっている。まだ意味が分かっていないような顔をしている鉄朗の足の間に割って入るように、わたしは無理やり鉄朗の胸に背中を預けた。そんな顔してるのに、かたくなってるものはかたくなっていて。


「どう?どきどきした?」
「当たり前だろ」


気がついてるけど、気がついてない振りをしてみた。それすら鉄朗はわかっているだろう。
鉄朗はわたしのお腹に手を回してわたしを軽く抱きしめた。よりいっそうかたくなるそれに、ああなんだわたし愛されてるのか。なんて思ってしまう。生理現象だとしても、嬉しかった。


「いきなり電気は消えるしよ、びっくりするだろ普通」
「あはは。ごめんごめん」
「なんで電気消したんだよ」
「ちょっと太っちゃってさ、見られるの恥ずかしくて」


わたしがそう言うと鉄朗は「どれどれ」なんて言いながらお腹に回した手でわたしの腹を容赦なくもむ。くすぐったい。「やめてよ」「なんで」「くすぐったいし」「いいじゃん」「よくない」「いいだろ」「だめ」「結衣」あーなんでそういうときに名前呼ぶかなぁ。鉄朗はさっきよりも強い力でわたしのことを抱きしめて、わたしの首に顔をうずめた。その いいだろ は違う意味の いいだろ にしか聞こえないんだけど。


「・・・いいよ」
「!!!!!!」


ぱしゃ、と水が跳ねる。


「いや、でもさすがにここでやるのはちょっと」
「もう無理、まてない」


鉄朗はそう言って、わたしの首に吸いついた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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