二人カフェで向かい合って座っていると彼女が「黄瀬くんの手ってきれいだね」と突然言ってきた。頬杖していた俺は自分の手を広げて見てみる。グッパグッパしていると彼女も同じように手を広げて、俺の手と見比べ始める。


「そうッスか?」
「うん、指長いし手のひら大きいし、爪も奇麗に切ってあるし、すてき」
「素敵!?」
「うん。あれ、変だった?」


バスケしてるから突き指なんてしょっちゅうだし、爪切らないとバスケできないからいつも切りそろえているけど、そんなに自分の手を奇麗だとは思ったことないなぁ。


「ううん、変じゃないッス」
「あれかなぁ、自分の好きな人の手だからそう見えるのかな」
「え!!」


す、好きな人、って。
彼女はこういうことをサラッと言うから、いつもどぎまぎしてしまう。そんな俺のことを気にしていない様子の彼女はストローでオレンジジュースをちゅうちゅうと吸う。あー考えようによってはちょっとえろいかも、それ。

って何考えてんだ俺!!!!!!まだ俺たちはチューしかしたことのない健全なカップルなんだ!!!!

コップを持つ彼女の手は俺の手よりもずっと小さい。手をつないで歩いたりしているのに、まじまじと見たことないかも。俺の視線に気がついたのか、彼女は手をテーブルの下に隠して、顔を赤くさせて言った。「わたしの手、きれいじゃないから見ないで!」いやそんな拒否しなくても。


「えーなんでッスかぁ。さっきまで俺の手散々見てたくせにずるいッス」
「見てない!」
「見―てーたー」
「見てましたすみません」
「わかればよろしい。ハイ、手見せて」
「なんか恥ずかしいからいやだなぁ」


なんでそうやってもじもじするのかなぁ、いちいち仕草がえろい気がするんだけど、俺の気のせいかなぁ。彼女は照れた顔をしながら俺を焦らす。おずおずとテーブルの上に戻ってきた彼女の手を取って、手相占いするみたいに手を見る。こんな小さい手が俺のこと過去から連れ出してくれたんだもんなぁ。すごい頼りのある手なんだなぁ。この手で俺にご飯作ってくれてるんだよなぁ。すごいなぁ。思い出すたび思い出すたび彼女への愛しさがあふれてしまって、触っている自分の手がどんどん汗でしめってしまう。慌てて手を離して制服のシャツで手をこする。


「どうしたの、黄瀬くん」
「いや、なんでもないッス」
「そう?」
「うん。佐藤サンの手小さいなぁって思ってただけ」
「黄瀬くんに比べたら小さいよー」


彼女は自分の手を大きく広げて俺に見せてくる。俺も手を広げて彼女の手に合わせると、ずいぶん小さいことが分かって、この手に守られているけど、俺も守らなくちゃいけないんだな、なんて急に身が引き締まる。そのまま恋人繋ぎするみたいに、ぎゅうと彼女の手を握ると、彼女も同じように手を握り返してくれた。

手汗かくほど緊張していたのは、どうやら俺だけではなったようで。


「手汗かいててごめんね!なんか手を見られたら緊張しちゃって」
「俺もおんなじもんスよ」
「そうみたいだね」
「うん」


彼女がへらりと笑うもんだから、俺もつられて笑った。

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テーマ「人外ファンタジー」
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