わたしは赤司征十郎を意気地なしだと思っている。幼馴染だから分かる。知ってる。彼は実はとても弱い人間だということを。そのことを知っているのはわたし位だ。彼はわたし以外では弱いところを見せないから。だから女子が「キャー赤司くんかっこいいー!」と騒いでいても、それに同意できないし、はたまた男子が「赤司は頼りになるなぁ」と言っても、それに頷くことはできない。わたしの中の赤司征十郎という人物は、格好悪いし、情けない人だと思ってる。


だからほっとけないわけでして。


わたしの家にまで来て、メソメソと愚痴を溢す赤司征十郎を心底ヘタレだと思っている。彼がメソメソしている間、わたしは一言も喋らずに話を聞いている。たまにうんうんと頷きながら。そして感じるのだ。わたしはどうあがいても幼馴染。それ以上でも、それ以下でもないということを。


あー
どうして好きになっちゃったんだろう。
こんな面倒くさい男を。



「また今日みんなに厳しいことを言ってしまった」
「俺に怒られることにビクついて練習したって効率は悪くなるだけなのに」
「だけど俺についてこれない部員たちに苛立つし」
「俺はどうしたらいいんだ」
「なぁ結衣、俺はどうしたらいいと思う?」
「いや、それは自分で考えようよ」
「ヒドイ」
「ヒドクナイ」


そしてまたメソメソする。はぁ、と溜息をつけば、「結衣が溜息ついた」とさめざめ泣く。ああ、イライラする。学校ではわたしのことを「佐藤」と呼ぶくせに、うちにきたら「結衣」ときたもんだ。彼がそんなんだから、わたしは「赤司君」と呼ぶしかないんじゃないか。イライラする。


イライラついでに「優しいこと言ってほしいなら、わたしじゃなくてファンの子に愚痴ったらいいのに」と言ってしまった。言うつもりはなかった。でもずっと頭の中で渦巻いていた言葉。ずっと頭の中にあったってことは、わたしの本心だってことだ。煮え切らないわたしの心と、彼の言動。男っていうのは、好きな子の前ではきっと格好良くいたいはずだ。だけどわたしの前にいる彼は格好悪くて、だめな人で、ヘタレだ。つまり、彼はわたしのことが好きじゃない。


「それはできない」
「なんで?わたしは赤司君に優しくできないよ」
「・・・なんで、って」
「またそうやってすぐ黙る」
「結衣が答えにくい質問をするからだろう」


答えにくい質問か?これ。しばし黙って考えていると、彼は「結衣は特別だからだ」と観念したように言った。そりゃ、たった一人の幼馴染だからね、特別ですよ。


「・・・結衣だからだ」
「わたしだから?」


彼は「結衣は俺のことヘタレだって言うけど、結衣は鈍感だ」と言って、はぁと溜息をついた。


「今日は帰る」
「わかった」
「明日また来る」
「えー」
「・・・嫌そうな顔するな」
「嬉しいですよ」


嬉しいですよ。
わたしにだけ見せるその弱い一面。格好の悪い赤司征十郎を知っているのはわたしだけ。優越感がないと言えば嘘になる。

だからもうしばらく、彼のヘタレ具合に付き合おうと思う。

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