誰にでも同じだけ優しいから、辛いよ。わたしは特別のはずなのに、彼女だから特別のはずなのに。全然特別じゃないみたいだ。わたしだけに優しくしてほしい、なんて言わない。でも、他の子とは違う何かが欲しいんだ。

スガさんはみんなから信頼されていて、信頼にこたえようとする人で、相談には全力で乗ってくれる。そんなスガさんだから好きになったのに、優しい人だから好きになったのに。いつの間にか優しくされると心苦しくなっていた。

インターハイ予選の終わった、残暑の残る秋。一緒に帰る約束をしていたわたし達は校門で待ち合わせた。部活でヘトヘトのスガさんは「あちーね」と言ってワイシャツのボタンをひとつ外した。えろい。


「坂ノ下行きますか?」
「そうしよっか」


わたしたちがこんな会話をしている間にもスガさんのことを知る人たちは、スガさんに挨拶して、「こんど勉強教えてねー」とか「宿題分かんないとこあったから明日教えて」とか「明日放課後空いてる?ちょっと相談があるんだけど」とか言ってきて、わたしが隣にいるんですけど、と少しムッとしながら、スガさんが「いいよー今度な!」「明日授業の合間に教えるよ!」「相談?なんか深刻そうだな大丈夫か?」とか答えるのを聞いている。なんでそんなに優しいの。

坂ノ下について、アイスケースからソフトクリームの形をしたアイスを取り出す。スガさんは冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して、レジに並んだ。こっちこいと手招きをされて隣に立つとわたしの手からさりげなくアイスクリームを取って、「会計一緒で」と言った。「え!わたしが払いますよ!」と慌てて言うと「これくらい奢らせてくれよ」と眉を下げられた。消え入るように「ありがとう、ございます」と頭を下げた。坂ノ下のおばあちゃんはにこにこ笑っている。

優しくされたくないわけじゃない。なのにどうして素直に喜べないんだろう。

坂ノ下から出て、スガさんに「ん」とアイスクリームを手渡されて受け取る。パカッと蓋をあけるとスガさんは手を広げて、頭の中にハテナマークを浮かべるわたしの手からその蓋を取り、坂ノ下のレジ袋に入れた。ひとつひとつの当たり前の優しさが、どんどん苦しくなっていく。わたしにしてくれることを他の誰かにも同じようにしていて。そんなの全く特別じゃないよ。

涼しい風が吹いているけど、まだ暑い。急いで食べないとアイスがどろどろと溶けてしまう。スガさんがなんか喋ってる。うんうんと相槌打ってるけど頭に入って来ない。


「あ、ぶない!」


スガさんが焦った声で言って、わたしを抱きとめた。その反動でアイスが手から落ちて、ぐしゃ、と車にひかれる。気がつかなかったけど、わたしは赤信号を渡ろうとしていたらしかった。スガさんが止めなかったら、わたしふつうに歩いてて、つぶれたアイスみたいになっちゃうところだった。


「す、すみません!」
「謝ることないけど・・・どうかした?今日ぼーっとしてない?」
「そう、ですかね」
「なんかあったのか?俺でよければ話聞くぞ?」


どうして そんなに 優しいんですか


ぽつり ぽつり 一言一言散り散りに言うと、スガさんは目をまんまるにさせてから、笑った。


「だって、佐藤、優しい人が好きって言ってたじゃん」


わたしが付き合う前にスガさんに聞かれたことがあった。「佐藤の好きなタイプってどんな人なの」わたしは何も考えずに、そうだったらいいなぁという願いを込めて「優しい人」と答えた。何も考えずにわたしは言っていたのに、スガさんはそれを真に受けて 優しい人 になっていたの?

なんて 優しい人

優しい人にならなくても、きっとスガさんはそのままでも優しい人で。矛盾で溢れた自分のことが、一瞬にして大馬鹿者に思えてくる。


「ど、どうした!?」


ぼろぼろと涙があふれてきてしまって、わたしはごしごしと目を擦った。おかしいなあ、なんで泣けてきちゃうんだろう。


「アイスか?アイスがぺちゃんこになったからか!?」


わたしが泣いたからかスガさんは慌てふためいて、きょろきょろして、せかせかと手を動かしていて、可笑しかった。


「あ、笑ったなー」


自分のことが大嫌いなわたしのことを、好きでいてくれますか。スガさん。

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