授業をさぼって、どこに隠れていようかな、と校舎裏をさまよっていたときだった。ニャーォゥなんて猫の鳴き声が聞こえて、思わず足を止めた。木の陰に隠れて猫の鳴き声がした方を覗き見る。

そこには髪の毛をバッサリと切った荒北くんがいる。荒北くんは恐る恐る猫に手を伸ばして、指先で頭を撫でた。ニャァ。気持ちよさそうに目を細めて、猫は鳴いた。その途端荒北くんの頬がふにゃんと緩む。・・・なに、かわいいんだけど・・・!

もっと近くで見たい、そう思って足を一歩踏み出した。パキッ。踏みしめた足もとから何かが折れる音が聞こえた。言わずもがな木の枝で。荒北くんと猫は動きをピタッと止めて、耳を澄ませているようだ。ど、どうしよう。わたしも一歩も動けなくなる。


「誰かしらねぇけど出て来いヨ」


動きを止めたわたしに、荒北くんは話しかけてきた。あー完全にばれた。わたしの姿が見えてはいないけど、わたしと言う存在はもう知れてしまったらしい。元ヤンの荒北くんにボコられる。耐えろよ、わたし。

意を決してもう一歩前へ。


「あ、あらきたくん」


何を言ったら良いか分からず、とりあえず名前だけ声に出す。同じクラスだけどたぶん荒北くんはわたしのことを知らない。だって荒北くんはだれとも親しくなくて、学校のすべてに関心がないようだったから。わたしが呼んだのは荒北くんなのに、なぜか猫がニャアと返事をした。荒北くんは指先でちょいちょい、と猫のひげで遊んで、言った。「だれにもこのこと言うなよ」わたしの方を見ずにそういうこと言うから、なんでだろう、と思った。わたしが誰か確認しなきゃ、口止めするときに誰を口止めしたらいいか、わからないじゃないか。


「誰にも言わないよ」


言ったら何されるか想像つかないし。
わたしが何を言おうと返事をしない荒北くんの代わりに、猫がもう一度ニャーオと鳴いた。猫可愛い。荒北くんも可愛いのだけれど。


「言ったら・・・ブチコロス」
「ヒッ!」


なんてこと言い出すんだこの人は・・・!怖いいいいい。と一瞬だけ思ったんだけど、荒北くんがわたしの方を見ないのは恥ずかしいからだって気がつくと、やっぱりどうしても荒北くんが可愛く思えてくる。なんで気がついたかって?だって斜め後ろから見ても、荒北くん、耳が真っ赤だから。


「ね、わたしも猫に触ってもいいかな」
「・・・勝手にすれば?」


猫が驚かないようにそっと荒北くんの横に並ぶ。荒北くんの顔はやっぱり赤い。猫は目をまんまるにしてわたしのことを見る。さっきの荒北くんと同じように恐る恐る猫に手を伸ばすと、座っていた猫は素早く立ち上がり、後ずさりをして逃げてしまった。


「あ、」
「逃げたな」
「ウン。なんか、ごめんね」
「なにがダヨ」
「猫ちゃん逃げちゃったから」
「またそのうち遊びくんダロ」
「そうだといいね」


荒北くんの顔色はすっかりいつも通りになって、「お前がだれかに言わネェように監視してないとな」と言った。そしてわたしはなぜか荒北くんとアドレス交換することになった。わたしの携帯に荒北くんの名前が登録されて、なんだかくすぐったい気持ちになる。荒北くん、別に怖い人なんかじゃなかった。

ガサ、と草むらから物音がして、わたしと荒北くんは顔を上げる。さっき逃げて行った黒猫がわたしと荒北くんのことを見ていた。ニャッと小さく鳴くと、走ってまたどこかへ行ってしまった。この猫がキューピットだったなんて、今のわたしと荒北くんは知る由もなかった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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