もし俺が幼馴染だったのなら。


次の日、青峰っちは学校に来たけど、結衣さんは学校を休んだ。結衣さんはしょっちゅう学校を休むと知っていたが、昨日の今日だ、休むのも仕方ない。
青峰っちは俺と目が合うと気まずそうに視線を下げる。それがまた俺を苛立たせた。廊下の端とは時にいるのに目があったような気がして、それでも逸らされたから走って追いかけて腕を引っ掴んで振り返らせる。胸倉つかんで壁に押しやると青峰っちは顔をきつく歪めて俺のことを睨んだ。


「何すんだ黄瀬ぇ・・・」
「何すんだ、はこっちのセリフッスよ」
「離せよ」
「結衣さんに謝ったんスか?」
「・・・」
「謝ってないんスね。すげぇ腫れてたんだよ、知ってるか?口の中切って、なかなか血が止まらなくて大変だったんだ」
「だからなんだってんだよ」
「結衣さんを解放しろよ」


いつまでたっても青峰っちのそばにいたら、もっと結衣さんが傷付くだけだ。俺にはそうとしか思えなかった。さっきまで目を逸らしていた青峰っちは俺の目をやっと見る。胸倉を掴んでいた俺の手を握り、強い力で外すと、怒りをあらわにして言う。「お前に結衣は渡さねぇ」


あーもう 俺の負けなのに。何やってんだよ俺。何ムキになってんだよ。


青峰っちはどこかへ行った。階段を上って行ったから、多分屋上にでも行くんだろう。どこにも行く気になれず、学校から出て行く。昨日結衣さんを送って行ったから、家がどこにあるかなんて覚えた。俺の足は自然と結衣さんの家へ向かっていて、通り過ぎることなくたどり着くことができた。インターフォンを押す手が先に進まなくて、ただ突っ立っているだけの俺のことを見つけたのか、玄関から結衣さんが顔を出して、俺は慌てて背を向ける。そんな俺に向けて「黄瀬クン?どうかしたの?」と結衣さんは言った。おずおずと結衣さんの方を向くと頬には大きな湿布を張り付けていて、胸が痛くなった。


「結衣さん」
「どうしたの黄瀬くん。泣きそうな顔になって」
「守れなくてすみません」


結衣さんを守る肩書なんてないのに、俺は謝っていた。結衣さんは玄関から出て来て、俺の目の前に立つと、安心させるように「大丈夫だよ、これくらい」と言う。でも俺は結衣さんが大切で、大切で。


「それに、わたしを守ってくれるのは 大ちゃんだから」


紛れもない 結衣さんからの拒絶。
入ることのできない二人の間。
分かっていた 知っていた 気がついていた
それでも俺は、 それでも俺は、 結衣さんを守りたかった。

ただのエゴにすぎない、恋心に似た何か。
目の端から、彼女を含める景色すべてが色褪せて行く。


「うん。 そう ッスね」


ほら、足音が聞こえる。急いでここへ向かってる足音が聞こえる。





「結衣!!!」


青峰っち やっぱあんたにはかなわねーッスわ。分かっていたことだけど、やっぱり悔しいから、泣き顔なんて絶対見せない。


「大ちゃん」
「黄瀬・・・」
「青峰っち遅いッスよー」


俺はお役御免。手をヒラヒラと振ってその場から去る。俺の行く場所はどこにもない。


距離ができて、二人に気がつかれないように振り返る。青峰っちは申し訳なさそうに結衣さんの頬を触り、結衣さんの頬を両手で包んだ。おでこを合わせると結衣さんは嬉しそうにふふと笑う。付き合ってんだか付き合ってねーんだか。


俺の世界がセピアに染まってゆくのを静かに感じ取る。
ねぇ結衣さん 俺 やっぱり結衣さんのこと確かに好きだったよ。

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