早朝バイトのコンビニでいつもよく見る顔がいる。オレンジ色のジャージを着て、スポーツバッグを肩から提げている。そのスポーツバッグにはSYUTOKUと書かれているから秀徳高校の学生であることは間違いない。オレンジ色のジャージ・・・わたしだったら着たくないなぁ。派手だもん。その人はいつもアイドル雑誌をぱらぱらとめくり、たまーに目をギョギョ!と見開かせて食い入るように雑誌を見て、スポドリとおにぎりを買っていく。スポドリとおにぎりは合わないような気がするなぁ。長くバイトしていると常連さんの顔は覚えてしまうもので、喋りかけてくれる人とかもごくまれに居たりする。長々と世間話をしていたら店長に怒られちゃうから、それはしないけどね。誰もいないことを見計らってくぁあと大きな欠伸をすると、


「あの・・・」


誰もいないわけじゃなかったみたい。慌てて「すみません!」と頭を下げる。「いや、いいっすよ、大丈夫っす」と言われて恐る恐る顔を上げると、いつも見る秀徳高校の彼だった。こうやって喋るのは初めてかもしれない。常連さんだからすっかり顔は覚えていたけど、声を聞くのは初めてだった。いつものおにぎりとスポドリを持って、彼はわたしのレジに並び、お金をちゃりんちゃりんとコインターに置いた。ピッピッとレジに打ちこみ、「560円お預かりいたします」「200円のお返しになります」「ありがとうございました」わたしが一連の流れを行う間、彼はもう口を開くことはなく、そのまま出口へと向かい、ドアノブに手をかけた。仲良くなりたいわけじゃないけど、なんだか心がモヤモヤして、変な気がする。お釣りを渡すときに触れた指先がチリチリと熱くなっている。ふぅと息を吐いて、今日の講義のことを考えた。1限からあるから、バイト終わったらすぐ大学行く準備しなくちゃ。そんなことを考えているとお客様が入店した時の音楽が聞こえて、入口を見た。あれ、まだ彼がいる。さっきと違うのは、彼はわたしに背を向けていない。こっちに向き直っていて、うつむいていた。どうしたんだろう。具合でも悪いのだろうか。えっと、こういうときのマニュアルはなんだったっけ、マニュアルを思い出していると彼はツカツカとわたしのレジまで来て、もしかして返品とかそういうのかな、と身構えていたら、


「俺と結婚してください」


と、大きな瞳いっぱいにわたしを映して、言った。


「け、結婚!?」
「いや・・・結婚を前提にお付き合いしてください」
「え!?」
「むしろ結婚を前提にお友達になってください」
「結局結婚を前提になんですね」
「だめっすか」
「というかわたし告白されてるんですか?今」
「プロポーズに決まってるじゃないっすか」
「えぇー」


こういうときのマニュアルはあるんですか。あるとしたら教えてください。・・・でも悪い気はしないから、どちらかといえばポジティブな方向へ持って行く、そんなマニュアルでお願いします。わたしはにっこりと営業スマイルを振りまき言う。「あと10分でバイト終わるので、お話しませんか?」返事はその後でもいいと思うんだ。彼は嬉しそうに目をキラキラさせて「あざっす!!」と言った。なんで彼がわたしと結婚したいと言うのか、気になって仕方がない。18になったばかりであろう彼がなにがあってわたしと一生を遂げたいと思ったのか、聞いてみたくなった。

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