わたしの大切な人が 死んだ。


そりゃーさ、危険な仕事をしていて、いつ死んでしまうか分からない、そんなところに身を置いて働いていることは知っていたから。わたしも同じように働いているから、覚悟はできていたはずだった。本当はそんなことはなかったのだけれど。幸せすぎてそのことをすっかり忘れてしまっていたよ。内々に行われた葬儀で、わたしは涙を堪えて彼の灰が燃えて行くのを見ていた。暗殺組織の一員として、彼にまつわるすべての情報は消さなくてはならない。つまり、わたしの頭の中に心の中に残る彼もすべて。爪が手のひらに食い込んで痛い。わたしの隣に立つ自称王子も今日は口元を歪めて笑うことなく、ただただ無表情に炎を見つめていた。


「終わったな」


黒い服がわたしたちの制服のようなものだ。いつも喪に服していろとでも言いたいのか、畜生。珍しくワイシャツに黒いネクタイをしているベルが、ポツリと呟く。仲間意識なんてこいつは持っていないだろうなんて考えていたけどそんなことはなかったみたいだ。一応悲しんでいるように見える。まぁ、一応、だけど。灰が完全に燃え尽き、彼がここにいたと言う過去が消え去った後、人は散り散りにその場から去って行った。残るはわたしとベルだけ。涙することはなかった。だけどその場から動けずにいる。ここからわたしが居なくなってしまったら、彼が本当にこの世から消えてしまうような気がして、動くことができなかった。



かれをわすれなくちゃいけないのに



「行かねぇのか?」
「ベルはもう行きなよ」
「やなこった」
「わたしに付き合うことないよ」


ベルは彼と親しくしてはいたようだったけど、わたしほどじゃないだろう。そんなベルが長々ここにいる理由なんてないように思える。今日まだ一度も笑ってないベルが見慣れなくて、笑ってほしい。こんなに笑わないベルを見たことはいまだかつてない。ベルがいつも通りじゃない。つまり、非日常的な事が起こってしまった。わたしは信じたくない事実を、ベルによって確認してしまっている。


「行こうぜ」
「まだここにいる」
「お前アイツが死んでから全然寝てねぇだろ。そろそろ寝ないとぶっ倒れるぞ」
「大丈夫」
「大丈夫じゃねぇ」


わたしがぎゅうと握りしめていた拳持ち上げると、無理やり指を開かせてベルは言った「血、滲んでんじゃんか」


なんでそんなに優しくするの。いつもわたしをからかってばかりいるベルが、どうして今日に限ってそんなに優しいの。

・・・そっか、今日だから 優しいのかな。


血が滲んでいるわたしの手を優しく包むと、ベルはゆっくりと歩き出した。いつも通りじゃないベルが気持ち悪い。気持ち悪い よ。


「ししっやっと泣いたか」
「笑うなうるさい」
「な〜結衣」
「なによ」
「アイツがいなくても、俺がいるじゃん」
「慰めになってない」
「そうかもな」

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