彼女は俺よりもずっとずっと小さいから、だから彼女に見えないものがより多く見えていると思う。だって俺、彼女よりずっとずっと大きいから。たまに拗ねた彼女が頬を膨らませて俺を見てくるのとかたまらない。意図してない上目遣いがぐっとくる。その顔を彼女に見せてあげたい気もするけど、それはしない。その顔を、俺は一人占めしたいから。こうやって二人で並んで歩いていても、きっと俺の視野と彼女の視野は全く違うもので、俺が見えていない物を彼女が見えていたりもするんだろう。どんな視界でも、どんな視野でも、彼女の中に俺が映り込んでいたら、それでいい。


「あ、黄瀬くん危ない」


彼女にそう言われて慌てて立ち止まる。隣を見ると彼女は下を向いて「空き缶、蹴飛ばすとこだったよ」と道路に転がっていた空き缶を指さした。確かにその空き缶は俺の目の前にあって、あのまま歩いていたら蹴飛ばすか、踏んで転げるかするところだった。危ない危ない。


「蹴飛ばさなくてよかったね」
「うん。ありがと」
「いいえー。ごみ箱ないかな?」


彼女はその空き缶をひょいと拾い上げるときょろきょろと辺りを見渡してごみ箱を探した。俺の視界は彼女よりも高いからすぐにコンビニを見つけることができる。彼女の手から空き缶を取って「あっちにコンビニあったッス」と言ってウィンクをした。「ありがとう」と彼女は笑う。


「ちょっと捨ててくるから待ってて」
「え、わたしも行くよ」
「いーッスいーッス」


手を振って彼女が歩きだすのを止めて、俺はコンビニまで軽く走った。ちらりと後ろを盗み見ると彼女は小走りをして俺を追いかけていた。待っててって言ったのになぁ、と苦笑いする。彼女はイイコだ。コンビニについて缶のゴミ箱に空き缶を入れる。ガシャンと音が鳴って空き缶はゴミ箱に吸い込まれていった。足音が聞こえて、彼女が俺に追いついたことを知る。足音がした方を向くと彼女がゼェゼェと息をしていて、一生懸命走ったということに気がついた。膝に手をついて、頭を項垂れている。帰宅部な上に運動は体育しかしてないから、完璧な運動不足だな、彼女。


「あ、今黄瀬くん、笑った、でしょ」


まだ息が整わないのか、途切れ途切れに彼女は言って、俺は笑いをこらえることができない。今度一緒にストバスでもしよーか。運動不足解消にさ。


「笑ってないッスよ」
「嘘だー、絶対、笑ったもん」
「つむじ、可愛いなって思ってサ」
「えっ、そ、そこ!?」
「うん、そこ」
「というかつむじ!?」
「つむじッス」
「テキトーなこと、言ったでしょ」
「そんなことないッスよ」


彼女は悔しいなあと言って、つむじに手をあてた。つむじが可愛いって思ったのは本当だよ。笑ったのは、佐藤サンの運動不足具合に、だけどね。

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