「どうしよう兵長がかっこよすぎる」


わたしがそう言うと周りにいたリヴァイ班の仲間達が「また始まった」と呆れた声で言った。いや、だってもう、わたしの中で抑えきれなくなった兵長へのリスペクトリスペクトアンドリスペクトは口に出して溢れだすしかないじゃないか・・・!なんて兵長はかっこいいんだろう。軽い身のこなし、鋭い眼光、華奢な体つき、そしてえげつない強さ。これをすべて持っている兵長をかっこいいと言わずになんと言う。リヴァイ班のみんなも兵長をすごく尊敬している。それは分かる。でもそのみんなを凌ぐほどわたしは兵長を尊敬し、そしておもむろに口に出している。口癖のように「兵長がかっこいい」と言ってはみんなを呆れさせる。わたしにしてみればどうしてみんな黙っているのかが不思議でならない。

先ほど行われた立体起動の訓練でエレンが地面にたたきつけられそうになったとき、兵長はササッとエレンをお姫様だっこで抱えて救い、叱り飛ばした。かっこよかった。わたしも兵長にお姫様だっこで救出されたい・・・!わざとミスろうかなぁなんて思ったけど、兵長はわざと失敗したりしたら気がつくのできっと助けてはくれないだろう。この案は却下。なんてぼけーっと考えながら立体起動の訓練を続ける。大木が立ち並ぶ森で、いかに速く立体起動を駆使して先へ進めるかの訓練。視界の隙間でチラリと兵長が見えた気がしてそっちに視線を向ける、と。


「結衣さん!!!」


後ろからわたしを呼ぶ大きな声が、続いて「前!!」という大きな声が聞こえて、慌てて前を向く。寸でのところに木が迫っていて、わたしは慌ててワイヤーを射出させた。肝がサッと冷えて、冷や汗がダラダラと背中を伝う。ギリギリで木をよけることに成功した。危なかった。あのまま木に激突していたら・・・そう思うと少しだけぞっとした。


「大丈夫ですか?!」


心臓がいまだばくばくと脈を打っているわたしに近づいてきたのはエレンだった。エレンは真っ青な顔をして、わたしの瞳を覗きこんでくる。もしかしてさっきわたしのことを呼んでくれたのはエレンだったのかな。あまりにも心配そうだから、わたしは笑って「だいじょーぶだいじょーぶ」と言った。ほっとした顔をするエレンにはまだあどけなさが残っている。うーん、若い。


「なら、良かった」
「それにしてもエレン速かったね。ここまでたどり着くの」


わたしのことを呼ぶ声が聞こえたのは、わたしのずっと後ろからだったから。エレンは格闘は得意な癖に立体起動はちょっとヘタクソだから、こんなに速く追いつかれるとは思わなかった。


「そりゃ、心配しましたから」
「ありがとう」
「結衣さんがよそ見なんて珍しいですね」
「リヴァイ兵長がいたような気がしたから、つい、ね」
「・・・そんなに兵長がいいんですか?」
「ん?」
「俺の事も見てくださいよッ!」
「えーっと、エレン?」
「・・・っ、なんでも、ないです」


エレンは気まずそうに、「先、行きます」と言って、加速した。わたしは何も言えずにエレンの後ろ姿を見送る。どんどん離れて行く距離に、わたしは戸惑った。さっきエレンが言ったことはつまり。つまり?


「いや、ちゃんと見てるよ」


ちゃんと君が成長していることは、分かってるよ。日々進化していく君を、ちゃんと見ているよ。でも君が言いたいことは、きっとコレじゃないんだろうね。

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