わたしは自分でもびっくりするくらいの方向音痴で、人混みに紛れ込んでしまったらなかなか抜け出せなくなる上に連れとははぐれて、家に帰ることも難しくなってしまう。だからわたしは人混みを避けるようにしているし、誰かと一緒にいるのなら目を離さないように気をつけている。そんなわたしでも人混みに紛れ込まなければならない時もあるし、そして目移りばかりすることだってある。

お祭りがやってきたのだ。

人混みでぐちゃぐちゃ。露店が立ち並び、何を食べようか、何をしようかと目移りばかりしてしまう。隣に並んでいる青峰は気だるそうな顔をしてわたしの歩幅に合わせて歩いている。祭りなんて誰が行くかなんて言ってたのに結局付き合ってくれる優しいヤツだ。うん、イイ彼氏だと我ながら思う。輪投げしたい、リンゴ飴たべたい、射的したい、オムそば食べたい、金魚すくいしたい・・・!どの露店が良いかな。こっちのほうがいいかな、でもあっちの方が並んでるからあっちの方が美味しいのかな。


「ねぇ、青峰はどっちのお店が良いと思う?」


青峰を見上げるようにして声をかけた。ら、そこにいるはずの青峰がいなかった。さっきまで一緒に歩いていたのに、青峰はいなくて、人の波がうじゃうじゃとわたしを流していく。え、え、え、え。青峰、青峰がいない。どこ行った。というかわたしがどっか行っちゃったのか。うわ、やばい。立ち止まっていることはできない。同じところに立ち、この流れに逆らうことは難しい。背の高い青峰のことだから頭ひとつ出ているはずだと思い見上げながら歩いてみるけど、行列も行列で先の方が見えない。わたしは完全に青峰とはぐれてしまった。


「あ、あおみね〜」


わたしの声は当たり前だけど祭りの騒がしさにかき消されて、青峰に届くことはない。もっとわたしがしっかりしていれば、青峰とはぐれずに済んだのだろうか。歩けど歩けど青峰の姿は見つからなくて、同じような場所を何度もぐるぐると回る。似たような背格好の人はいても、肝心な青峰はいない。携帯を見てみると青峰からの不在着信が三件あって、すぐにかけ直すものの青峰は出てくれなかった。タイミング、悪いなぁ。いい加減歩き疲れて、足には靴ずれができてしまった。これでもし、青峰に会うことができなかったら、どうなっちゃうんだろ、わたし。自分の方向音痴を呪う。人通りの少ない道の端に行きしゃがんで人の流れを見つめる。仲睦まじそうなカップルが手を組んで歩いて行った。


「・・・手を繋いでたら、はぐれなかったのかな」




「ここにいたのか」
「あお みね」




ばっと誰かがわたしの目の前に立ち止まって、見上げると肩で息をしている青峰が立っていて、怒られるのかなーと思ってビクビクして目を瞑った。それなのにいつまでたっても怒鳴られることがなくて、恐る恐る目を開けると青峰も同じようにしゃがんで、自分の頭をガシガシ掻きながら「焦った」と言った。「ごめんね」「謝るくらいならはぐれんな」「その通りだ」でもまぁ、青峰が見つけてくれたから、良かったじゃん。ね。青峰はわたしの腕を掴んで立ち上がらせ、そして指をからませるように、握った。こんなの初めてだ。


「もう絶対に離さねぇ」
「また迷子になっちゃうもんね」
「結衣がな」
「うん。でもまた迷子になったら探してくれるでしょ?」
「仕方なく探してやるよ」
「うん」

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