黄瀬は、間の悪い男だと思う。なんでそうやって、わたしが誰にも会いたくないときに、やってくるんだろう。


たとえばわたしが授業サボってるときとか、
たとえばわたしが一人だけで補習しなくちゃいけないときとか、
たとえばわたしが友達とケンカしたときとか、
たとえば、

わたしが失恋したときとか。




教室がオレンジ色に染まるなんて知らなかった。
わたしの視界を歪ませる涙を隠すために、ゴシゴシと拳で拭うとそれに気がついた黄瀬は「どうしたんスか?」と眉を寄せた。黄瀬の髪の毛がオレンジ色に染まる。「やっぱり黄瀬はイケメンだねぇ」とわたしが誤魔化すと、黄瀬は眉を下げた。黄瀬はわかりやすいヤツだと思う。そして、イイヤツだとも。


「なーに言ってんスか」
「ほら、夕日の光に反射して、黄瀬の髪の毛がキラキラしてるからさ」
「何があったか、言うつもりはないんスね」


わたしの拳を見るとところどころ黒くなっている。ああ、メイク落ちちゃったか。せっかく奇麗にメイクしたのになぁ。・・・好きになってもらえるように、頑張ったのになぁ。全部全部、無意味だった。あの人に好きになってもらうためにしたわたしの努力は、全部全部無駄だった。ダイエットも、メイクも、お洒落も、たち振る舞いも。何もかも。あーあ。明日からどんな顔して会えばいいんだろう。普通の顔して、あの人に会えるだろうか。わたしがふられる前に、わたしが告白する前に。そもそも、わたしが好きだと思う前に。戻れたら。


「うん」


黄瀬は間が悪い男だと思う。わたしが一人ぼっちのときに大抵出会ってしまう。一人でいたいときに、大抵黄瀬はやってくる。・・・本当は、一人でなんて、居たくないのだけれど。


「馬鹿だなぁ」


黄瀬はひどく優しく笑う。馬鹿だなぁって、きっとわたしのことを馬鹿だって言ってるのに、どうしてそんなに笑ってるの?


「その強がりこと、好きなんスよ」
「・・・は?」


これだから鈍い女は嫌なんスよね〜と黄瀬は言って、わたしの頬をきゅっとつまんだ。痛い・・・。


「たまにはさ、強がらなくてもいいんじゃないスかね」
「・・・痛いよ」
「うん」
「いたい」


黄瀬がそうやって頬をつねるから。
だから涙が出ちゃうんじゃないか。


「うん」


さっきさ、好きなんスよって聞こえたけどさ、ばっちり耳に入っちゃったけどさ、聞かないフリしておくよ。そのほうが、きっと幸せだから。黄瀬はわたしのことを好きかもしれないけど、わたしはやっぱりまだ、あの人のことが忘れられないんだ。

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