及川は、とても格好良い。それは誰もが知っていて、学校中のみんなが知っていて、他校のみんなも知っていて、それが、わたしをとてもイライラさせるのだ。わたしだけが及川を知っていたい。どんな及川も、わたしが独占したいんだ。いつも不安で仕方ない。及川が他の女の子のところへ行っちゃうんじゃないかって、いつも心配なんだ。そんなわたしを安心させる術を、及川はわかっている。だから、わたしは及川から抜け出せないんだ。今日もまた女の子のファンにヒラヒラと手を振る及川を横に、わたしは溜息をつきたいのを我慢していた。彼女が横にいるのに近づいてくる女の子もどうかと思う。もしかしたら彼女たちの目にわたしのことは映っていないのかもしれない。女の子ってスゴイ。


「じゃあまたねー」
「はい!あの、握手してくれてありがとうございました!」
「ううん、こちらこそ!」


女の子たちが及川に背を向けて走り去るまで、ご丁寧にも手を振り続ける及川がすごくすごくむかつく。なんで彼女が横にいるのに、そうやって平然とやってのけるかわからない。わたしには理解できない。へらへらとした笑いを隠すことなく、わたしの方へ向き直って言う。


「結衣ちゃんはヤキモチ焼きダヨネ?」
「・・・だれのせいで」


できることならヤキモチなんて焼きたくない。嫉妬するたびに心臓が痛くて、嫉妬する自分が嫌いだし、わたしにわざとヤキモチを焼かせる及川だって嫌いだ。わたしはもっと平和に、及川と付き合いたいのに、わたしの好きなひとはこんな感じで軟派でふにゃふにゃで、どうしようもないから、


「デートの続きしよっか」
「・・・うん」


わたしがヤキモチをやかずに済むことはない。きっとわたしがヤキモチ焼きだから、わざとしてるんだろう。ああ、腹立たしい。及川はへらへらした笑顔を仕舞うと「そんな顔ばっかりしてると、良くないよ」と言う。畜生、イケメンめ。誰のせいで、わたしがこんな顔をしなくちゃいけないと思ってるんだ。


「ねぇ、抱きしめてもいい?」


もし、及川が格好良くなかったら、そしたら女の子のファンなんてできなかったのだろうか。


「わたしがノーって言っても、どうせ抱きしめるんでしょ」
「ウン」


そうしたら嫉妬することなんて、なかったのだろうか。


「悔しいなぁ」


及川の背中に手を回して、わたしの心臓はやっと落ち着きを取り戻す。目を閉じて、思う。わたしを嫉妬させて、安心させるために抱きしめて、及川は一体何がしたいんだろう。大きな及川の体に包まれて、また涙を飲んだ。

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