彼は自殺願望でもあるのだろうか。わたしを屋上へ呼び出し、何を思いわたしを待っていたのだろうか。


「赤司、危ないよ」
「平気だ」


手すりの向こう側に立って、そこからわたしを見つめている赤司が、わたしは怖い。何を考えているのか全く読めない。これが噂のメンヘラってヤツなんでしょーか。わたしがいくら「危ない」と言っても、「こっち来てよ」と言っても、そこから動くことはない。華奢な指で手すりを掴んでいる赤司は、すぐ下はグラウンドで、落ちたら間違いなく死ぬと言うことは分かっているだろう。それなのに、なんでそこにいるのか。自殺願望があるようにしか思えない。

この時点で先生や誰かに助けを求めればよかったのかもしれない。でも今赤司から目を離したら何をしでかすか想像がつかない。結局わたしは動けずにそこに突っ立っていた。赤司は飛び下りるわけでも、こっち側にくるわけでもなく、わたしと同じように突っ立っているだけ。夏の濃い空が赤司の向こう側に広がっている。赤司の髪の毛が太陽の光に透けて、とてもきれいだった。


「・・・わかったこうしよう」
「なに?」
「俺は絶対ここから飛び降りたりはしない」
「いや、その言葉は信じられないよ」
「俺のことが信じられないのか?」
「そういうわけじゃなくて、そっちは危ないからこっち来てって言ってるの」
「危ないだろうが、平気だ」
「・・・要求は何」


赤司の向こう側の空が、なんとなく三途の川のように見えた。そこを渡ろうとしているわけではないと、わたしに伝える赤司の言葉を、信じられない。危険な賭けを赤司はしているんだ。一歩間違えたら死んでしまうところにいる人の要求はどんな要求でも飲むしかない。唾を飲み込むとゴクリと喉が鳴った。わたしが一歩前に出ると、赤司はピクリと指を震わせる。わたしはそれを見逃さない。



「お前と墓場で眠りたい」



一瞬耳を疑った。
わたしたちはまだ中学生で、そりゃ、手すりの向こう側にいる赤司にとって、墓場は近い未来なのかもしれないけど、手すりのこっち側にいるわたしにとって墓場はまだまだ先のものだ。聞き間違いかもしれないと思い、「は、墓場?」と聞くと赤司は小さく頷いて「ああ」と言った。・・・聞き間違いじゃなかった。赤司はわたしと墓場で眠りたいらしい。わたしの足りない頭でどう考えてもその言葉は心中の言葉にしか思えなくて、悩んだ。この要求を飲んでもいいのだろうか。飲まなかったら赤司はどうなってしまうのだろうか。わたしは、死にたくはない。


「・・・今?」
「まさか」
「いつ?」
「結衣が皺だらけになって、俺も同じくらいそうなったら」
「ああ、そういうこと」
「どうなんだ?」


どうなんだって、どうなんだろう。でもまぁ、わたしがおばあさんになって、赤司がおじいさんになったらってことだから、まだまだ先のことだし、いいのかな。


「てかそれ、プロポーズ?」
「・・・言われてみたらそうだな」


わたしたちはまだ中学生で、婚姻届も提出できない年齢で、遠い未来の話をしているわけだから、きっとどこかで道を間違ったり、踏み外したりして、今約束をしている未来を迎えることはできなくなってしまうかもしれない。それでも、それでも、


「赤司、よろしくお願いします」


わたしが一歩出ても、二歩出ても、赤司の指先は動くことはない。恐る恐る手すりを掴んでいるその華奢な手に、自分の手を乗せる。赤司の手はひどく冷たくて、自分の手の温かさを思い知った。



「こっちおいで、赤司」
「・・・ああ」

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