たぶんわたしは黄瀬くんに嫌われているのだと思う。他の女の子同様にわたしを扱うことはない。他の女の子は黄瀬くんに優しく扱われていて、きゃあきゃあまとわりついていても怒られることはない。しかし、わたしはどうだ。わたしを目の前にすると黄瀬くんはものすごく嫌そうな顔をして、わたしのことをものすごく冷たくあしらうのだ。いや、別に黄瀬くんのことは全く好きじゃない。全く好きじゃない、け ど!どうしてわたしはそんな扱いをされなくちゃいけないんだろう。クラスメイトだということくらいしか接点しかないが、クラス委員長のわたしは嫌でも黄瀬くんに関わらなくちゃいけない。それがどんなに苦痛なことか!きっと黄瀬くんはわたしのことが嫌いなんだ。そのはずなのに、黄瀬くんは提出物を忘れることが多い。忘れるたびにわたしに口うるさく言われることになる。忘れたらわたしに注意されるってわかっているだろうに、繰り返し忘れ物をする黄瀬くんは、いったい何なんだろう。


そして今日もわたしに注意されることになるんですよ!黄瀬くん!


逃げ足の速い黄瀬くんを捕まえるのは困難だ。しかしわたしは黄瀬くんの逃走ルートを覚えている。何度も追いかけっこを続けていたら、黄瀬くんが逃げやすい場所だって把握してしまうのは道理だ。わたしは今日もその逃走ルートを思い浮かべて、しらみつぶしに片っ端から探し出すべく走り出す。使われていない空き教室の扉に手をかけて開くと、何かに手をひかれて教室に連れ込まれる。背後でピシャンと扉が閉まる音が聞こえた。


「は?・・・」
「また委員長は俺のこと追いかけてたんだ」


ドアを背にして黄瀬くんが立っていた。そのことで黄瀬くんがわたしの腕を引っ張ってこの教室に引き入れたことを理解した。放課後の教室で、さらにカーテンが閉められている。薄暗い教室で黄瀬くんの表情をみることはできない。キラリと黄瀬くんのピアスが光った。カーテンの隙間から入ってきた夕日の光を反射したんだろう。わたしは一瞬目を瞑った。


「・・・化学のレポート、出してないの黄瀬くんだけだよ」
「ホント?」
「本当」
「委員長俺の分もやっておいてよ」
「誰が」
「ケチ」
「ケチじゃありません」


目を少しずつ開くと、黄瀬くんはいつの間にかわたしのすぐ目の前にいた。物音がしなかったんですけど。あまりの近さに一歩下がる。そうすると「なんで逃げるの?」と黄瀬くんは一歩前に出て、またわたしに近づく。「あの、近いんですけど」「逃げることないと思うんですケド」一歩、また一歩後ずさり。わたしよりも一回りも二回りも大きい黄瀬くんを前にして、逃げ道なんて無いことなんてすぐにわかる。もう一歩も後ろに下がれなくなって、やっと気がつく。わたしの背にあるのは、壁。ついに逃げ道がなくなった。


「あの、あの、あの」
「ちょっと、黙って」


黄瀬くんの右腕が、わたしの顔の横にある。
黄瀬くんの顔が、わたしの顔の、すぐ近くにある。

わたしの視界が黄瀬くんで埋まってしまって、わたしは黄瀬くんの顔を見ることができず、目を力強く瞑った。黄瀬くんの言葉通りに黙ってしまって、強気なわたしはどこへやら。


「プッ」


くっくっくっく と馬鹿にするような笑い声が聞こえて、おずおずと目を開くと、わたしの目の間で金色の髪の毛がさらっと揺れる。笑い声に合わせて小刻みに揺れる頭をぶん殴りたいと、衝動的に思ってしまった。・・・やらないけど。


「教室暗いのに分かるくらい、顔、真っ赤だよ」
「うる、さい」


目が合って、キッと睨みつけると、黄瀬くんは楽しそうに笑う。黄瀬くんは絶対わたしのことをからかって遊んでる。


「レポート明日持ってくるよ」
「今日が提出期限なんだけど」
「明日でいいじゃん、ね?」


そう言うと黄瀬くんはやっとわたしから離れて、「じゃあ部活行くわ」と言って、教室から出て行こうとする。慌ててその後ろ姿を呼びとめると、少し驚いた顔をしながら黄瀬くんは振り返って言う。「何?」


「・・・なんで」


わたしをそう言う風に構うの

言えなくて「ちゃんと期限守らないの」と誤魔化すと、「だって委員長、面白いんだもん」と黄瀬くんは返した。


「サイテー」


たぶんわたしは黄瀬くんに嫌われているけど、わたしだって黄瀬くん、好きじゃないよ。

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