・・・メンバーに、選ばれなかった。
吹奏楽部員であるわたしは、次のコンクールのメンバーには選ばれなかった。そりゃわたしはまだ一年生で技術も先輩方に劣る。それでも一年生の何人かはメンバーに選ばれていた。だから一年生が入れないってことはないはずだったんだ。選ばれるために毎日遅くまで練習して、部活が休みの時も自主練して、楽譜が真っ黒くなるまで書きこんで、コンポが壊れるくらい聴き込んで、それでも足りなかった。わたしの努力は、全然足りなかった。わたしの限界までやりきっても、足りなかった。部活が終わった後の教室で、一人佇む。ギリ、と拳を握りしめると、爪が掌にっくいこんで痛い。悔しくて悔しくて、仕方なかった。



「あれ、佐藤じゃん。どうかしたの?」


背後から声が聞こえて振り返るとそこには高尾がいた。前髪をかきあげて、視界をひろげた高尾の瞳にわたしはどんな姿で映っているかな。いつもと変わらずに映っているといいんだけど。悲しそうだったとか思われたくない。わたしは何食わぬ顔で、「ちょっと宿題してたらこんな時間になっちゃって」と言うと高尾は不思議そうな顔をして「机の上、何も乗ってないけど」と言った。下手な嘘、つくんじゃなかった。


「あはは」


空笑いをすると、高尾は眉間に皺を寄せて、わたしのことをまじまじと見てきた。見ないでよ、胸が痛くなる。「笑うとこ?今」と高尾は言う。いや、全然笑うところじゃない。でも笑わないと泣いてしまいそうだから。泣きたくないから。泣いてしまったら、受け入れなければならなくなるから。受け入れられるほど、心には余裕がないから。


「俺に言われても、って思うかもしれないけど」

「泣きたいときは泣けば良くね?」


その言葉で、わたしの中の何かが外れる。
じわじわと視界が滲んでいって、高尾の顔が霞んでいく。


「あーもう」


泣きたかったのか、わたしは。

完全に視界が崩壊した。ぼたぼたと溢れる涙を止めるために手で目を抑えると、高尾は「泣かしちゃった」と言って、わたしのことを慰めるように抱きしめた。


「なにしてんだよう」
「何って、ハグ?」
「付き合ってるわけでもないのに」
「まーまー細かいことは気にしない」


わたしの涙が高尾の制服に染み込んでいく。その涙が嬉しいのか、高尾は「そうそう、その調子でどんどん泣いちゃえ」と言った。

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