わたしは強くないから、わたしは弱いから、ミカサや、アルミンや、エレンみたいに、訓練兵になることはできない。畑を耕して野菜を作っている方が性にあっているとも思う。三人について行くことができないのは、すごく悲しくてしかたがない。わたしに力があれば、わたしに勇気があれば、三人と同じように調査兵団を志して、訓練兵になろうとしただろう。でもわたしには力も勇気も何もない。三人について行くことはできないのだ。三人が村を離れるとき、わたしはどんな顔をしたらいいか、分からなかった。


「・・・明日、いなくなっちゃうんだね」
「あぁ」


さっきまで最後の晩餐と称して楽しい食事会が開かれていた。わたしは腕を揮ってごちそうを作り、三人に内緒でプレゼントを用意した。わたしにできることはこれくらいだから。騒ぎ疲れたのかアルミンとミカサは二人並んでソファで眠っている。これから怒涛の皿洗いが待っているわたしには眠ると言う選択肢はない。ランプの灯りがゆらりと揺れて、エレンの横顔が滲んで見えた。エレンはわたしの向かい側の席に座り、何をするわけでもなく、ぼーっとランプの灯りを見つめている。そうやってぼーっとしてるエレンも、好きだったなぁ、わたし。

わたしたちはまだ15歳で、大人から見れば子供だろうけど、決して子供ではない。自分で決めて、自分で生きて行くことだってできる年齢だ。自分で身の振り方を決めて、自分の決めた道を進んでいくことができる。わたしが選んだ道と、エレンが選んだ道は全然違う道で、きっといつまでたってもその道は交わることがないだろう。交わることがないってことはつまり、もう二度と、エレンとは会えないかもしれないって、そういうことだ。


「早いなぁ」
「そうだな」


すーすーと寝息を立てる二人のすぐそばで、エレンは一体何を考えているんだろう。胸がいっぱいなのかな、希望で満ち溢れているのかな。目の前いにいるわたしのことを、エレンはちゃんと心の中に残していてくれるかな。ランプの光がどんどん薄くなっていく。オイルがもう残り少ないのかもしれない。


「・・・ミカサとアルミンが、うらやましいなぁ」


これから先も、辛いことはたくさんあると思うけど、エレンと一緒にいることができる。命の危機にさらされることが、きっとわたしよりも多く身に降りかかることになるだろう。それでも、エレンと一緒にいることができる。わたしはできないのに。

わたしにもっと力があれば。
エレンのそばに、ずっとエレンのそばに、いることができたのだろうか。


「なんでだ?」
「なんでってそりゃ・・・」


エレンが 好きだからに 決まってるでしょーが


口が裂けても言えない言葉が喉の奥で止まる。エレンはいつまでたっても鈍感なんだから。少しはこっちの身にもなってほしいよね。

テーブルを埋め尽くすお皿を重ねて、キッチンへ運ぼうとするわたしの腕を掴んで、エレンはすっぽりと、わたしのことを腕の中に仕舞い込んだ。


「ええええええエレン!?」
「結衣が長く生きられるように、巨人を駆逐するから」
「・・・うん」
「みんなの仇とるから」
「うん」
「ちゃんとここで野菜作って待ってろよ」
「うん」
「お前はちょっと抜けてるところがあるから」
「ないよ」
「ある。・・・だから色々と、気をつけろよ」
「色々って?」
「気づけよ、ばーか」
「馬鹿ってひどいなぁ」
「ばーかばーか」
「ひどい」
「・・・俺以外の男のとこ、行くなよ」


あれ?あれ?これってつまり、


「エレンってわたしのこと好きなの?」
「好きじゃないヤツにこんなことするかよ、ばか」
「ま、また馬鹿って言った」
「・・・結衣ちっちゃくなった?」
「エレンがおっきくなったんだよ」


ぎゅううと体が軋むくらいの力で抱きしめられて、やっぱりエレンは男の子なんだなぁと、今更ながら感じる。

エレン しなないで
たとえ道が交わることがなくても、わたしが道作ってエレンに会いに行くから。それまで絶対死なないで。

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