泣きたいのはこっちだ。


「何度目?」
「三度目、です」
「この前したときさ、言ったじゃん。もうしないって」
「うん」
「その前だって、もうぜったいしないって」
「・・・うん」


目の前にいるわたしの恋人が、ものすごく小さく見える。背はわたしよりも、他の同級生よりも高いのに、今じゃわたしと身長が変わらないように思えてしまった。目を瞑りたくなる。こんな由孝を、わたしは見たくなかった。過去に二度、見ていたけど、もう見たくなかったよ。

そりゃあさ、付き合っているから由孝が可愛い女の子が好きなことは知っている。わたしが試合応援行ってもわたしのために戦うなんて一言も言ったことなかったのも、覚えている。そんなことにいちいち落ち込んでいたら、由孝と付き合っていけない、そんなのも分かっている。でも、それでも、


「浮気は、ないよね」


浮気は、ない。浮気は許したくない。

由孝が部活を終えるまで、わざわざ待っていた。わざわざ待つくらい、話し合わなくちゃいけないと思ったからだ。友達が心配そうな顔をしながら、わたしに「また明日ね」と言って、一人二人と居なくなって、ついに一人ぼっちになった瞬間、「なんでわたしはこの前許してしまったんだろう」と自分の愚かさに胸が痛くなった。

問い詰めて、最初は否定し続けた由孝を、わたしはすごく情けないと感じる。
それでも好きなんだもん。馬鹿だよ、わたし。それでも由孝じゃないと嫌なんて、ほんと、馬鹿。


「なんで浮気するの?わたしのどこがいけないの?」


この前の浮気だって許した。いつも由孝に優しくしてるつもり。労わってる、無理はさせないように、会いたいとかデートしたいとか言わないでいた。バスケに集中したいってことはわかっていたから、わたしはバスケの次で良いと考えていた。


「だって結衣は会いたいとか言ってくれないから、嫌いになったのかと思うよ」


そのほうが良いと、勘違いしていた。


「嫌いなわけないじゃん。嫌いだったらもう別れてるよ」


由孝を嫌いになりたい。嫌いになる方法があるなら教えて。





由孝の彼女を名乗る女からの電話で夜中起こされた。ぎゃーぎゃーと電話の向こう側で言葉にならない言葉を泣き叫び続けていて、電話を切りたくなったけど、ちゃんと話を聞くことにした。聞きたくなかったけど、ちゃんと聞かなくちゃ、由孝に問い詰めることはできない。知りたくなかった今回の浮気の全貌に、耳をふさぎたくなる気持ちを抑えて、電話の向こう側の彼女を窘めながら、話を聞いてあげる。今までの二回の経験から、突然知らない女から電話がかかってくることは慣れてしまっていたし、うんうんと話を聞くことが一番手っ取り早いことも覚えてしまっていた。でも、全部を知ってしまうと言うことは、全部を受け止めると言うことは、本当に、本当に、辛い。でも、見て見ぬふりをできるほど、わたしは大人ではないので、だからこうやって由孝に問い詰めてしまうんだ。





「なんで」


良い彼女を、してきたつもりだった。


「………ごめん」


泣かなかったよ。
由孝の浮気を知った時も、泣かなかったよ。
電話の向こう側の彼女は、よく泣いていたけど、泣かなかったよ。
こういうところが可愛くないのかな。
泣いて、泣いて、好きなの大好きなのと伝えていたら、こんな風にはならなかったのかな。


好きでも、別れなくちゃいけない


友達がそう言っていたことを思い出した。それが今なのかな。今なんだろうな。由孝が大好きで、今回も許そうと心の片隅で思っているけど、今回許しても、また次する。しないかもしれない、でもきっとわたしは由孝を疑い続けてしまう。そんな状態で、良い彼女を演じることは、きっとわたしにはできない。


「もう、別れよう、由孝」
「別れたくない」
「だって無理だよ」
「ごめん、もうしない、絶対しない」
「この前も聞いた」
「………ごめん」


由孝が言う 運命 が、わたしの運命と、由孝の運命が、またどこかで巡り合う運命にあるのなら、きっとその時また付き合えるよ。そんな運命はないのかもしれないけど。来世になるのか、来々世になるのか、今世なのか、それは誰にもわからない。もしかして大人になったわたしたちがまたどこかで出会って、また恋に落ちるかもしれない。



「わたしだって、別れたくないよ」



教室を出て行く。背中で由孝がもう一度 ごめん と言ったのが聞こえたけど、聞こえなかったふりをした。わたしが欲しかったのは謝罪じゃない。わたしが欲しかったのは、二人の幸せな未来だった。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -