今日は部活がオフだから一緒に帰ろうと思って彼女のクラスへ行く。ガラリと扉を勢いよく開けて、彼女の席の方へ目を向けると、見知らぬ男子生徒と親しげに喋っている彼女。ニコニコ笑いながら喋って、いた。男の方もそれはもう笑いながら彼女に話しかけている。彼女が男と喋っていよーがなんだろーが別にいいんですけどね、俺には関係ありませんけどね、ね、ね。学校に来ていたら男とも女とも喋らないといけない、いけないというか喋るのが当たり前。当たり前だってわかっているんだけど、彼女が親しげに男と喋っているのを見てたら心臓がズクズクと波打って、非常に不快だった。それを顔に出すほど、俺は子供ではありません。ドアのすぐ近くに立っている女の子がおずおずと俺に「もしかして結衣ちゃんに用事なの?」と聞いてきた。俺は笑いながら「うん、そうだよ」と言って、いつもなら彼女をここに呼んでもらっていたけど、今日は足を一歩教室に踏み入れた。ズカズカと大股で彼女の席まで行く。彼女は俺のことに全く気がつかずに男と喋っていて、俺が来たことに気がついたのは男のほとんど隣に立ってからだった。


「あれ、黄瀬くん?」
「んじゃ、また明日な、佐藤」
「うん、よろしくねー」


彼女はヒラヒラと男に手を振った。よろしくってなにがよろしくなの。佐藤サンはその男とよろしくすんの?いろいろ思うことはあったけど、それは言わずに「一緒に帰ろ」と言う。彼女は「わ!もうこんな時間だったんだね!ごめん」と言って慌てて立ち上がった。それを見た俺は一足先に教室を後にした。廊下で彼女が来るのを待っている。あー、馬鹿らしい。気持ちを入れ替えるために目を閉じてふぅと息を吐いた。目を開けると彼女が「お待たせしました」と言ってやってきた。俺はいつものように笑いかけて歩き出した。




「黄瀬くん」


朝は雨が降っていたから自転車じゃなくて歩いて学校へ来た。朝の土砂降りが信じられないくらいに天気が良くなっていて、並んで歩いて帰ることにした。学校から出て何分経ったことだろう。後ろから彼女の声が聞こえた。立ち止まって後ろを振り返ると彼女が「曲がるとこだよ?」と言って右の道路を指さした。うわ、あの男と彼女の関係を考えていたらいつの間にかこんなところまで来ていたのか。そーいや今日は彼女に気を使って歩かなかったから、もしかしたら彼女のペースよりもずっと早く歩いていたかもしれない。小走りで彼女のところまで戻り「ちょっとボーっとしてたみたいッス」と笑った。彼女は不思議そうな表情をしたけど、すぐにいつも通りの表情になって、「晴れて良かったね」と言った。

彼女の歩幅に合わせて歩きながら、また俺はあの男と彼女の関係について考える。結論からいくと、ただのクラスメイト、だ。俺と言う彼氏がいながら浮気なんてするわけないだろうし、多分実験とかなんかのグループが一緒になったとか、委員会が一緒だとか、そういう類だと思う。俺が来たことにすら気づかずにずっと親しげに喋っていたところが、なんていうかね、もうね、ただただむかつく。


「黄瀬くん、どうかした?」
「えっ?何が、スか?」
「なんかいつもと違うから、黄瀬くん」


いつもと違うって、そのいつもと違う原因を作ったのは佐藤サンなんですが。


「いつもと変わらないッスよ」
「そうかなぁ」
「そうッスよ」
「もしかして怒ってる?」
「俺が?」
「うん」
「怒ってないッスよ」
「うーん」


彼女は腕を組んで「じゃあなんだろう?」と唸った。眉間に皺を寄せて首をかしげるところがなんともまぁ可愛らしい。


「なんか嫌なことがあった、とかはない?」


・・・嫌なこと。
彼女が俺の知らない男と親しげに話していた。その上男は彼女のことを佐藤と呼んだ。ヤキモチを焼くなんて馬鹿らしい。器が小さい。そう思うのに、俺はやっぱりヤキモチを焼いていて、怒ってはいないけど、不機嫌ではある。返事をせずに黙っている。黙秘と肯定はイコールだ。でもなんて言ったらいいかわからなくて、結局口を開けずにいる。

そんな俺を見てきっと彼女は勘違いしたんだろう。珍しく彼女が俺の手を握ってきた。悲しいことがあったとか、そんな風に勘違いしたのかな。慰めるように、優しく手を握られる。


「佐藤サン」
「わたしにはこれくらいしかできないけど」
「・・・うん」


その優しさに、俺の嫉妬が本当に馬鹿らしく思えて、大きな溜息が出た。その溜息といっしょにさっきの不快な気持も吐きだされて、心臓がスーッと軽くなった。


「いつも黄瀬くんの力になりたいって思ってるからね」
「ありがと」
「うん」


彼女がふんわりと笑う。彼女はすごいおんなのこだ。俺とお付き合いをしているだけはある。俺が好きになっただけはある。俺の荷物をいつの間にか持って行ってくれるんだ。俺にとってどんなに重い荷物でも彼女は軽々しく持ち上げるものだから、俺は彼女に精神的に甘えてしまっている。そのことがいいことなのか悪いことなのかまだ分からない。愛しさがあふれる。こういうときに抱きしめたりするのだろうけど、天の邪鬼な俺にはそれがとても難しい。抱きしめる代わりに、優しい彼女の左手を、俺はいつもよりも強い力で握り返した。

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