腕が痛い。


「さっき誰と喋ってたんだ?」
「クラスメイトの人、です」
「へぇ、名前は?」
「青峰くんの知らない人だよ」
「俺が知ってるとか、知らないとか、関係ないんだよ」
「ただ普通に喋ってただけだから」
「普通にって、どんな?」


ぎり、と青峰くんに腕を掴まれる。五本ある指の一本一本がわたしの腕に食い込んでくる。相当な強さで掴まれているから、きっと痕がくっきりと残ってしまうことだろう。痛い。ものすごく痛い。腕も痛いけど、同時に胸も痛かった。青峰くんは独占欲がすごい。わたしが青峰くん以外の男と喋ったらその男をボコボコにしてしまうくらい、独占欲が強い。青峰くんにしてみたら喋った内容はどうでも良くて、どうでもよくないのは、わたしに青峰くん以外の男が近づいたと言う事実、だ。そうならば男に手を出すんじゃなくて、わたしに手を出せばいいのに、彼はそれをしない。


「次のテスト範囲のことを」
「へぇ」


彼はボコボコにした後に、とても恥ずかしい写真を携帯に収めて、誰にも言えないようにする。噂が独り歩きするだけで、みんな彼が暴力を振るったという事実は知らない。
喋るときだって細心の注意を払って喋っているのに、彼の目はどこについているんだろう。全部筒抜けだ。だからわたしは女友達以外とは喋らないようにしているのに、不意に話しかけられて、無意識に答えてしまっていた。ああ、わたしのせいだ。全部、わたしのせいだ。


「もう、やめてよ」


何度言ったことだろう。誰かに暴力を振るうのを、止めてほしかった。


「止めてくれなきゃ、」


別れる と口にした途端、青峰くんはわたしを掴む腕の力をさらに強くさせる。痛みに耐えられなくなったわたしはついに「痛い」と涙ながらに訴えた。それでも緩むことのない力に、わたしは反抗する。その腕を何とか振りほどこうと手で払いのけたり、同じように腕を掴んでみたりしても、どれも無駄に終わった。当たり前だ、青峰くんの力にわたしは敵うはずがない。


「結衣は俺の彼女だよな?」


青峰くんの目を見たって、わたしのことが好きだなんて、そんなことちっとも思えない。キスもした、セックスもした。やったことは恋人同士のことだ。でも青峰くんにも、わたしにも、気持ちなんてなかった。なんで付き合ってるんだろう。なんで別れられないんだろう。信頼関係なんて皆無なわたしたちが、これから先もずっと一緒にいるとは思えないのに、どうして青峰くんはそこまでしてわたしに固執するんだろう。痛みから逃れるために「うん」と答えると、青峰くんは少しだけ力を弱めた。それでもその腕を振り払うことは、わたしにはできないけれど。


青峰くんからわたしとバスケットを取ったら何が残るのかな。


「ああ、そうか」


桃井さんか。

一人納得するうように頷くと、青峰くんは不思議そうな顔をしてわたしのことを見てくる。ああ、そうか。青峰くんはずっと桃井さんの幻影を追っているんだね。追いつけないその影に苛立って、それをわたしにぶつけているんだね。そうだ。きっとそうだ。そうなんだ。青峰くんはわたしのことを全く、好きではない。わたしも青峰くんを好きではないけど。青峰くんの力から逃げられないから、嫌々付き合っているんだ。そうなんだ、そのはずなんだ。

なのになんで

青峰くんがもしかしたら桃井さんを好きなのかもしれない
そう考えるの胸のあたりが苦しくなってしまうんだろう。


もし青峰くんがちゃんと桃井さんと付き合っていたら、きっとこんな風に暴力を振るったりしないことだろう。



「あはは」



自分のものにできないその苛立ちを、わたしで発散しているのか。
青峰くん、君の中の真っ黒なものがわたしにも移りつつあるよ、全部全部、君のせいだ。胸が痛くなってしまうのも、ぜんぶぜんぶきみのせいだ。

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