わたしは都内の進学校を受験するつもりだけど、赤司はどうするんだろう。頭のいい赤司のことだから、きっと偏差値の高い高校へ行くつもりだと思う。もしかしたら同じ後攻だったりするのかな。なんて淡い期待を込めて勉強の合間に赤司に聞いてみた。


「赤司はどこに進むの?」
「高校の話?」
「うん」
「洛山だけど」
「ら、洛山・・・?」


聞いたことのない高校の名前に、わたしの頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていく。都内にそんな名前の高校はないはず、だ。わたしの知る限りでは。じゃあいったい赤司はどこへ行くのだろう。赤司が将棋の駒をパチンと打つ。その音のおかげなのか、わたしの中のクエスチョンマークが一つ減った。


「もしかして、出て行くの、東京から」


将棋盤から目を離し、赤司はわたしのことを見た。そして「そうだ」といつも通りの口調で言う。クエスチョンマークがひとつ、またひとつと消えて行く。赤司は、都内には進学しない。つまり、赤司は勉強ではなくバスケを取ったということだ。勉強を取るのなら東京から出て行く意味がないから。自分でも信じられないほど、ショックを受けていた。シャーペンを握る手に力が入らない。これじゃ字もまともに書けないよ。動揺を隠すために赤司の目を見るのをやめて、ノートに視線を移した。泳ぐ目を見られちゃ、困る。


「どこ、へ」


こんなにショックを受けているのは、赤司がわたしのそばにいなくなってしまうから、なのか、わたしじゃなくて勉強でもなくて、バスケを選んだから、なのか、それはわからない。


「京都だ」


京都 オウム返しのように、わたしは呟いた。きょうと。遠い。新幹線で約3時間。とおい。遠いよ。

これってもしかして、遠距離恋愛ってヤツ、なんでしょーか。

動揺していることを赤司にばれてしまうのが癪で、わたしは動揺を隠すために「ふうん」と何も気にしていないようなそぶりを見せた。今更、なのかもしれないけれど。別に赤司が京都へ行こうと、どこへ行こうと、わたしには関係のないことで、赤司の行動を制限なんてできない。これはきっと仕方のないこと。赤司が選んだことだから、わたしはそれを享受するしかない。


「寂しいか」
「全然」
「結衣らしいな」
「わたしらしいって、何」
「全然って言ってる割には、そんな顔をしてないところ」


そんな顔ってどんな顔よ。
もう一度赤司の目を見ると、その赤い眼には悲しそうな表情を浮かべるわたしが映っていて、思わず目をそらした。顔には出さないようにってしていたのに・・・!これじゃあさっき「ふうん」って興味ない振りをした意味がない。


「俺は寂しいよ」
「じゃあなんで」


なんで行くの


「電話する」
「うん」
「手紙も書く」
「うん。返事書く。いやいやながら」
「素直じゃないな」
「お陰さまで」
「年末年始には帰るだろうし」
「それだけ?」
「多分、それだけ」
「そう」
「無関心みたいだな」
「うん」
「本心ではなさそうだ」
「うるさい」


行かないで なんて言えるはずがない。赤司が選んだことに、わたしが口を出す権利なんてないのだ。二人して口を閉じると、赤司は目線をまた将棋盤へ移した。わたしも問題集に視線を落として、再び数式とにらめっこをすることにする。パチン、とまた赤司が駒を打ち、わたしはその音を聞きながら課題をこなしていく。本当を言うとね、少しだけ寂しいんだよ。素直じゃないから言えないけど。でも赤司はそんなわたしのこと、見透かしているんだろうな。


「浮気しないでね」
「結衣こそ」
「わたしはモテないから」
「そういう問題じゃない」
「赤司はモテモテだから」
「結衣以外好きになれるわけないだろう」


なんで赤司はそういうこと、サラッと言うんだろう。


「たったの三年だ。すぐだよ」
「長いよ。そして京都は遠いよ」
「すぐだ」
「あ、問題解けた。合ってる?」
「見せて」
「はい」


こうやって二人で一緒に過ごす時間も、あとわずかなんだね。
もし仮に、赤司とこのまま付き合っていて、80歳まで一緒にいるとする。そう考えちゃえば三年なんて、たったの三年だ。暗示をかけるように心の中で唱える。たったの三年。赤司が京都へ行っちゃうまでに、二人で何をしよう。受験勉強をしながら、何ができるだろうか。会えなくても大丈夫だって思えるような、何かをしなくちゃ。


「合ってるよ」
「やった」


たとえば


「赤司」


キスとかさ。



できなくなっちゃう前に、たくさんしようよ。
わたしが目を閉じると暗黙の了解みたいに、赤司はわたしに唇を寄せた。

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