仕事が早めに終わって急いで家へ帰ることにした。いつも通りの帰宅路を車で走る。結衣御用達のスーパーの近くの信号機で赤信号に引っかかりブレーキを踏んだ。反対車線側にあるスーパーをぼーっと眺めていると、彼女が出てきたではないか。彼女がスーパーから出てくるところを目撃したことはいまだかつてない。俺は芸能人だからここで彼女を呼び寄せたらスキャンダルに発展しかねないため、声をかけたいのをぐっとこらえて青信号になるまでの間彼女を観察することにした。大きなエコバック二つを持ち、ぐらぐらと危なっかしくスーパーから出てきた彼女をはらはらしながら見ている。あの荷物、いつもどうやってうちまで運んでるんだろう。よたよたと歩いていると前方から男がやって来て彼女の荷物をサッと持った。誰だあの男・・・。ちょうど電柱に被っていたり、車が通り過ぎたりで男の背格好が良く見えないけれどあの感じは男だ、違いない。もう少しで男の姿がちゃんと見えるところで青信号になってしまい、車を発進せざるを得なくなってしまった。心の中に渦巻くモヤモヤとイライラが混ざったような感情に吐きそうになる。なんだこれ。

久々に彼女よりも先に部屋にたどり着く。今日は本当はもっと遅い時間に帰る予定だったから、うちに来た彼女はさぞ驚くことだろう。楽な格好に着替えてソファに座り、彼女の帰りを待つ。なんだか落ち着かなくて、彼女が帰ってくるまでの間コーヒーを淹れたり、ウロウロと部屋を練り歩いてみたりする。コーヒーが冷めてしまい、やっと飲みきった時に彼女は帰ってきた。玄関を開けたとき、スーパーの前で見かけた男はもうすでに居なくなっている。


「・・・おかえり」
「ただいま。幽早かったね」
「今日は早く仕事が終わったんだ」


彼女が部屋に上がり、あのエコバックから食材を取り出して冷蔵庫へ詰めて行く。その後ろ姿を見ていても落ち着くことはなく、むしろぐちゃぐちゃした感情がどんどん大きくなっていく。その感情に耐えきれず、まだ食材を冷蔵庫に入れ終わっていない彼女の背中に抱きついた。


「幽ー、これじゃあしまえないよー」
「今日スーパー、誰と一緒だったの?」
「あれ?近くにいたの?」
「信号待ちしてた」


彼女は驚くことはなく、いつも通りの口調で「荷物持ちしてくれた人がいたんだよ」と言った。その回答じゃこの心は晴れない。相手の人物が何者か隠しているような気がしてならない回答に、苛立ちは増す。苛立ちが増すほどに、俺が彼女を抱きしめる力の強さも増えていった。


「幽、ヤキモチ?」
「・・・誰が」
「幽がヤキモチ焼いてる」
「これ、ヤキモチ?」
「うん。わたしが誰と一緒にいたか気になるんでしょ」
「なる」
「それでイライラしてるんでしょ」
「うん」
「それヤキモチだよ」


あはは!と彼女は豪快に笑って、「幽のお兄さんだよ!」と言った。


「・・・本当に?」
「うん。今ここでお兄さんに電話して確かめてもらっても構わないよー」
「俺は結衣を信じてる」
「ありがとう」


このぐちゃぐちゃした感情は、ヤキモチというのか。実の兄に嫉妬って、俺、二回目じゃないか。学習しないな。はぁと長い溜息をついて腕の力を緩めた。緩めたからと言って彼女は俺の腕の中から脱出しようとはしていなくて、むしろ俺の体に体重を預けてくる。


「わたしも幽を信じてるよ」
「・・・結衣ふとった?」
「なっ!!失礼な!!」


良い年した大人の男がやきもちってかっこ悪い。照れ隠しに太った?なんて聞いたけど、全然体重変わってないと思うよ。まぁ結衣のことだから照れ隠しに言ったなんてとうに気がついているんだろうけど。

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