子供扱いされることが、イヤ、だ。


「ここは僕がお金を払う」
「いーよいーよ、先輩に任せなさい」
「そうはいかない」
「赤司くんはわたしの後輩なんだから、ほら、お財布しまう!」


仕事終了後二人でご飯を食べに行き、そこでいつものやりとり。会計のときにどちらがお金を払うかでもめるのは毎度のことだ。彼女は僕より年上だ。年上で、そして僕の職場の先輩でもある。先輩でもある、が、彼女は僕の彼女なんだ。確かに彼女は仕事ができる。だからきっと給料だって僕より上だ。けれども、僕にだってプライドはある。アルコールの入った頭で僕のプライドについて少しだけ思考した。


「・・・ごちそうさまでした」


そして結局押しの強い彼女に負けてしまう。財布を鞄にしまい、彼女がお金を払っている間にそそくさと店を出てドアのすぐそばで待つことにした。あとどれくらいの時間がたてば、彼女は僕にお金を払わせるのだろう。それだけじゃない。あとどれくらいの時間がたてば、彼女は僕を子供扱いすることをやめるのだろうか。正直僕はなめられていると思う。普段電車通勤だから僕が車に乗れるなんて知らなかったらしく、デートするときに車で迎えに行ったらものすごく驚いていたし、難なく運転していたら「運転上手なんだね!すごい!」と言う。僕がやることなすことハラハラ心配そうな目で見てくるし、たまに手を出されたりもする。僕は一体どんな風に見られているんだろう。

僕は男だ。
そして僕は大人だ、子供じゃない。


「お待たせー」


小走りで彼女が店から出てくる。僕よりも一回り小さい女性。小さいのに僕より年上の女性。そんなに年は変わらないのに、どうして彼女は僕を子供扱いするんだろう。そんなにそそっかしく見えるのだろうか。どちらかといえば僕より彼女の方がそそっかしいような気がするんだけど。しっかりしてはいるけど、たまーに危なっかしいと言うか・・・。


「結衣さん」
「なに?」
「明日休みなんだよね?」
「うん、休日出勤の予定はないけど」
「僕も休みなんだ」
「知ってるよ」


キョトンとした表情をした彼女は上目遣いで僕を見てくる。ねぇ、その顔なに?僕の中のなにかが掻き立てられる。彼女はきっとこんな僕を知らない。

彼女の腕をひっつかみ、僕はずんずんと歩き出す。人通りの多い飲み屋街。彼女もアルコールが入っているせいか、掴んだ腕がいつもより熱い気がした。戸惑いながら僕の後ろを小走りについてくる彼女を気遣う余裕なんてない。こういうところが子供に見えるのかな。


「ど、どうしたの?」
「どうも?」
「歩くの早いよ」
「僕は結衣さんよりも背が高いから」
「そうだね」


立ち止まり振り返ると、急に立ち止まれなかった彼女が僕の胸に飛び込んできた。そのまま彼女の背中に手を回してぎゅうと抱きしめる。僕の腕にすっぽりおさまるのにどうして結衣さんは大人ぶるの?


「赤司くん?」


今日、ちょっと変だよ と小さく聞こえた。
いつも変だよ。結衣さんといるときの僕はいつも変なんだ。

子供をあやすように、彼女は僕の背中に手を回してとんとんと撫でた。


「・・・僕は年下だけど」
「うん」


子供扱いされるのも、正直嫌とも言えないとたまに思うけど、


「男だ」
「え?うん。そうだね」
「結衣さんと朝まで一緒にいたいんだけど」
「うん?」
「意味分かってる?」
「・・・どういう意味?」


ねぇ、からかってるの?

彼女から体を離して、今度は手を握ってさっきと同じようにずんずんと大股で歩き出した。後ろから「早いよ」とか「もうちょっとゆっくり」とか聞こえたけど、そんなの気にしてる場合じゃない。


「結衣さんだって大人で、僕だって大人だ」


大人が二人揃って、夜で、明日は休み。やることはひとつしかないでしょ。

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