「もしもし」
「仕事終わったんスか?」
「うん」
「お疲れッス」
「疲れたよー」
「晩御飯できてるッスよ。早く帰っておいで」
「え、涼太今日学校は?」
「早く終わったんス」
「急いで帰る!」
「待ってる」


改札出て、わたしの一人暮らしのアパートへ向かう途中、なんとなく声が聞きたくなって電話をしてみた。そしたら涼太はわたしの部屋で待っていると言うじゃないか。急いで帰るしかなくて、仕事で疲れた体に鞭打つように、いつもよりも早く歩くことにした。わたしの部屋の合鍵を持っている涼太はたまにこうしてわたしの帰りを待っていてくれる。本当にたまにだけど。部活とモデル両方頑張っているから、わたしと過ごす時間は限りなく少ない。こういうとき、もし同い年だったら、なんて考えてしまう。そんな「もし」とか「たら」とかの話をし出したらきりがないから、頭を振って忘れることにした。アパートの二階の隅の部屋。カーテンから漏れる光で涼太がちゃんとわたしの部屋にいることが分かる。階段を上るのも苦じゃなくて、わたしはスキップをするかのごとく階段を上った。いつもなら勝手に鍵をガチャガチャと開けるところだけど、今日はインターホンを押してみる。ピンポーンと鳴った数秒後、勢いよく扉が開いて、わたしは間一髪で避ける。黄色のサラサラした髪の毛が、まず目に入った。その次に耳に着いたピアス。


「おかえり!」
「ただいま」
「今日はシチューッスよ」
「お、いいねー」
「お酒も冷えてるッス」
「え、買えたの!?」
「戸棚の奥から発見したッス」
「涼太はまだ未成年だもんねー」


他愛のない話をしながら部屋に入ると、少し散らかっていた部屋が奇麗に整っていて、もしかしなくても涼太が片付けてくれたのだと推測できる。ぐーたらしているわたしを見せられるのは涼太だけなのだ。年下相手なのに見栄をはったりしないから、楽。そりゃ二人で出掛けたりしたらわたしの方が多くお金払うようにはしているけどさ、それ以外は対等で、涼太と過ごすのが一番自分らしくいられる。部屋着に着替えてリビングへ行くと、すでに晩御飯の準備ができていて、あとはわたしが席につくだけだった。わたしが椅子に座ると涼太はパチンと手を合わせて「いただきます」と言った。わたしも同じように手を合わせる。あー相変わらず涼太は料理が上手だなぁ。できた男だよほんと、と感動しながら涼太が一から作ってくれた晩御飯を食べる。食べている間に涼太は今日あった出来事を話したり、わたしは仕事の話をしたりする。晩御飯が奇麗に片付いたところで涼太は冷蔵庫から良く冷えたチューハイを持ってきてくれた。グラスはもちろんひとつ。氷の入ったグラスに注がれる期間限定のチューハイ。


「あー早く俺も大人になりたいッス」
「わたしは若返りたいよ」
「若返んなくていいッスよ」


若返りたい と言うより 涼太と同い年になりたい。
疲れた体にアルコールはよく回ると思う。全然量を飲んでいないのに体がだるくなって、ほわほわしてくる。耐えきれずテーブルに突っ伏すと涼太は「世話がやけるんだから、もう」と言ってわたしを担いだ。そのままベッドにどさっと下ろす。もうちょっと優しく扱ってほしいよ、わたし。涼太も一緒にベッドに横になってくれると思いきや、スーッとどこかへ行こうとしてわたしは慌てて引きとめた。「どこ行くの、」涼太は困ったように笑って、「お皿洗ってくるだけッス」と言う。わたしは名残惜しそうな顔をしていたのか、涼太はわたしの髪の毛を撫で、瞼にキスを落とした。


「すぐ戻るから」


あやすように言う。
これじゃあどっちが年上かわかんないな。涼太が戻ってくるまでだるさに負けないようにしようと心に誓った。


「俺が大人になったら、結婚とか、できるのに」


お皿を洗うために流している水の音で、かき消された。

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