練習試合で他校へ行くことになった。毎回のことながら道中はキャーキャーうるさいし、学校着いてからもキャーキャーうるさいし、体育館に行けばギャラリーすごいし、試合始まったら監督の指示が聞こえないくらいうるさいし、練習試合が終わったらサインくれっていう行列がウザイ。練習試合に行くのも、他校がウチに来て練習試合するのも、同じくらい面倒くさくて、練習試合が実は嫌いだ。でも練習試合が俺に与える影響と、チームに与える影響はやっぱり大きいから、練習試合はするべきなんだと思う。はぁぁと長い溜息をつきながらぞろぞろと行列の最後尾を歩いていると、後ろから笠松センパイに蹴りを食らわされた。あまりの痛さに何も言えずに耐えていると、「しゃきっとしろ」と一喝される。「ウス」と答えて真面目な顔をする。今はバスケに集中しなくちゃ。

案の定、学校に着いてからは地獄だった。俺のことを追いかけてくる女の子から俺を守るために他のチームメイトたちが壁になってくれたりして、感動する。チームっていいね、素晴らしい。なんとか危害を与えられずに体育館まで行くことができ、これで第一段階はクリアした。次に第二段階、体育館で待ち構えているギャラリーだ。試合中に監督の声が聞こえないのは辛い。体育館に一歩足を踏み入れると割れんばかりの良く分からない声。ここはアイドルのコンサート会場かなにかですか。俺の名前を呼ぶ黄色い声の方へ向き笑顔を振りまいておく。昔からのくせは今更直しようがない。


「あ」


俺の耳と目はよくできているから、すぐに彼女を見つけることができるのだ。彼女の口が「がんばれ」と動いたのを見た俺は、確かめるように頷く。彼女を前にしてかっこ悪い姿なんて見せられるわけがない。









練習試合終了後、俺の周りにはファンのみんなで人垣ができてしまう。チームメイト達が壁になろうとしてくれたが、女の子たちに圧倒されてしまったらしく、みんな俺から離れて行ってしまった。助けて欲しかったが、断ることができない俺は差し出された色紙にさらさらとサインを書いていく。こんなの誰が欲しがるんだろ。誰が大事にするんだろ。何の価値もなさそうに見えるんだけど。試合後の疲れた体に鞭打ってさらさらと書き続ける。あまりにも行列がすごいものだから、チームメイトは「学校でミーティングあるからちゃんと学校来いよ」と言い残し、帰って行ってしまった。最低。ちゃんとサインを書き切り、急ぎ足で体育館を出るとそこには「お疲れ様!」彼女が俺のことを待っている。まさか彼女が待っていてくれるなんて想像もしていなかった俺は驚きながら「え、待っててくれたんスか?」と言った。


「うん。学校行くんでしょ?」
「行くッス」
「一緒に行こ」
「うん」
「それにしてもすごい行列だったねー」
「見てたんスか!?」


もしかして「わたし以外にニコニコしないでよー!」とか「知らない人に愛想振りまかないでよー!」とか言われるんじゃないかと、喧嘩勃発しちゃうんじゃないかと、内心ハラハラしながら彼女のことをさりげなく凝視すると、いつもと変わらない態度で「見てたよーさすが黄瀬くんだね!」と笑った。ここ、笑うところですか?どっちかと言えばヤキモチを焼く場面だと思うんですけど。


「あのギャラリー女の子ばっかりだったから、きっと黄瀬くん目当てばっかりだったよ」
「そ、スか?」
「うん。すごいね、黄瀬くん」


ヤキモチを焼くどころか彼女は俺のことを「さすが」とか「すごい」とか言って、一向に怒るそぶりも見せない。俺の知っている女の子って言うのは、ヤキモチ焼きで、嫉妬深くて、独占良く強い、ん、だ、け、ど・・・。彼女にはそれが一つも当てはまらない。ヤキモチは焼かれない、束縛もされない。だから少しだけ、ほんのすこぉぉぉおおしだけ、不安になる。ちゃんと俺のこと好きなのかなって。好きだったらヤキモチ焼くだろうし、束縛もするだろう。でも彼女はしない。なにもしない。


「心配にならないんスか?」
「なにが?」
「・・・なんでもないッス」


でもそんな風に不安になってる俺を見せたくなくて、知られたくなくて、口にしたけど、結局なんでもないと言った。彼女は「なんでもないならそんな顔しないでよ」と不満そうに頬を膨らませた。俺がちゃんと好かれてるかどうか不安なんだって言ったら、笑われる気がして、俺っぽくないって思われそうな気がして、言えない。


「どんな顔ッスか」
「しいて言えば悩んでいる顔」
「悩んでる?俺が?」


彼女はあごに手を当てて、そーだなーと唸る。悩んでいるわけではない、不安なだけで。この心のうちのもやもやを彼女に伝えたらすっきりする。でも伝えたところで彼女は一体何を思うんだ。もやもやは晴れるかもしれない、晴れたところで彼女が感じることは変わることはない。きっとヤキモチを焼くようにはならないだろうし、束縛だってしないだろう。言ったところで結局は何も変わらないのだ。


「悩んでないッスよ」
「そう?じゃあわたしの気のせいってことで」
「そッスよ」
「何かあったら遠慮なく言ってね!」


言えたらどんなに楽なことか。

ヤキモチ焼かれなくて、束縛されなくて、本当に好きかどうか、不安になっちゃった、なんて、これから先も言える気がしない。


「うん」


隣に並ぶ彼女を見て、
言える気はしないけど、俺はちゃんと彼女を好きだな、なんて実感してしまう。天の邪鬼な俺には、遠慮なく言ってねと言う彼女に心内をすべて見せることはできないようだ。それでもちゃんと好きで、やっぱり好き。

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