「ねー黄瀬くん」
「んー?」
「今日はせっかく部活もモデル業もないのに」
「うん」
「なんで黄瀬くんはわたしの膝枕でのんびりしてるの?」
「なんもやることがないッスからねー」


天気も良くてお出かけ日和で、ショッピングセンターも公園も人でごった返していることだろう。それなのに彼は昼間からわたしの膝枕でごろごろごろごろ。あまりにもごろごろするもんだから、「宿題終わらない限りごろごろはナシだよ!」と言ってみたらわたしが1時間かけてした宿題を30分で終わらせてしまった。彼はやればできる子だと思う。何の予定もない日曜日だから、買い物でも行くのかと思いきやそんなことはない。彼の部屋の家事を二人で一通り終わらせると、彼は「疲れたッス〜」と言って床にごろんと寝転んだ。その隣に座り雑誌を眺めていると彼はさりげなく、本当にさりげなくわたしの膝に頭を乗せてきた。そんなこと今の今までなかったからわたしは慌ててどかそうとすると拒否され、代わりの枕を持ってくると言う提案は却下され、わたしは膝枕をすることになってしまった。


「さっき宿題終わっちゃったもんね」
「うん」
「そろそろ夏服買わなくちゃじゃないの?」
「今度で良いッス」
「晩御飯の材料とか」
「あるもんで良いッス」
「えー」
「今日はこうしてたいの、俺」


黄瀬くんは、ずるい。
さっきまで閉じていた瞼が開かれ、わたしの瞳を捕える。ああもう、そんな目されちゃったら「しょうがないなぁ」って言うしかないじゃない。

眺めていた雑誌をパタンと閉じて、彼のきらきらな前髪を指でとかす。彼はもう一度目を閉じて、今度は眠る態勢になった。長いまつ毛が網戸越しに入ってきた風に揺れる。


「黄瀬くん」


眠る態勢に入っている彼の名前を呼ぶと、まどろみの中にいるであろう彼はわたしに生返事をした。しばらくすると、すーすーっと小さく寝息が聞こえてきて、眠りに入ったことをわたしは知る。


「涼太」


いつか彼が一度だけわたしの名前を呼んでくれたことがあった。その時色んな気持ちがごっちゃになっちゃって、笑っちゃったけど、嬉しくて嬉しくて、しょうがなかったんだよ。付き合ってたけど、彼の気持ちが見えなくて宙ぶらりんで、わたしの名前なんて知らないと思ってたから、変だけど、わたしの名前をちゃんと覚えていてくれて、本当に嬉しかったんだよ。


もし、今、彼が眠りに着いていなかったら、わたしの声が聞こえていたら、黄瀬くんは何を思うんだろうか。もう一度呼んでほしいって、思ってくれるだろうか。


「・・・恥ずかしいからもう呼ばない」


誰かの名前を呼ぶことが、こんなにも嬉しくて、幸せなのだと言うことを教えてくれたのは、黄瀬くんだよ。黄瀬くん、いつもありがとう。

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