面白いことが大好きな彼は、わたしのことよりは二の次三の次。平凡なわたしに面白いところなんて見当たらないから、優先順位はかなり低い。それでも肩書は 彼女 なんだから笑っちゃうよね。今日も一緒に晩御飯食べに行く約束してたのに、友達カップルが喧嘩してるから仲裁しに行くとか言って、すっぽかされた。何の予定もなくなった土曜日の夜。一日一緒にいるって、いつからしてないんだろう?最後に丸一日一緒に過ごしたのはいつだろう?これって付き合ってるって、言うのかな。 今日は外で食べると思っていたから、買い出しに行かなかった。冷蔵庫は空っぽで、晩御飯を作ろうにも作れない。ぐぅぅとお腹が鳴った。仕方ない、スーパー行くか。スーパー近いし財布だけでいいや。片手に財布を持って、小さなアパートを出た。鍵をかけて、徒歩五分のところにあるスーパーへ向かう。何食べようかなぁ。今から作ったら結局晩御飯食べられるのは8時位になっちゃうし、カロリー高いのはちょっとなぁ。 スーパーにつくとこの時間帯から値下げしている商品があったりするから楽しい。あーいわしやすくなってるーあ、これお刺身にもできるみたい。捌けるかなぁ・・・。とりあえず買ってみよう。明日の朝ご飯はーうーん。卵買っておくか。あ、ベーコン無いんだった。明日の朝はベーコンエッグにしよっと。卵高!!やっぱ安売りの時に買おうそうしよう。あー鶏胸肉も安くなってる。これは買いだな。そろそろ実家から野菜が届くと思うんだけどまだかなぁ。でも野菜食べないと体に悪いもんね。玉ねぎと人参とジャガイモ・・・買ったら荷物重たくなるなぁ。あ、カレー食べたい。 食材を見ると食べたい物がポンポンと浮かんできてしまってさらにお腹が減ってしまう。ぐう。 結局お会計して荷物を袋に詰めたらそうとう重くなってしまった。こんなに買い物するつもりなかったのに。あ、ビール買うの忘れちゃった。これ以上買ったら重たくなるからいいや。帰り道は行きよりも早く感じるものだけど、今日はそんなことない。本当は早く帰ってご飯作って食べたいんだ。これから先に待つ長い夜が嫌で、帰りたくなかった。カズヤがいたら、楽しい夜のはずなのに。 重い荷物を両手に持ってよろよろと頼りない階段を上る。もうちょっとセキュリティがしっかりしたところに住みたいけど東京物価高すぎでしょ。住めるはずがない。ぜーはーと息を弾ませながらやっとの思いで二階までたどり着く。 「あ、れ」 わたしの部屋のドアの前でしゃがんでいる人が、いた。 「カズヤ」 だって今日は、約束なくなったはずなのに。 わたしの声に気がつくとぼけーっと外を眺めていたカズヤは顔をあげて、わたしのことを見た。 「おせーよ」 「そんなこと言ったって」 カズヤが来ると思っていなかったから。 「電話かけても出ねーし」 「あ、近いスーパー行くだけだったからスマホ置いてったの」 どうせ、連絡来ないと思っていたから。 それなのにカズヤはやってきた。わたしの部屋の前で、わたしが帰ってくるのを待っていた。 「腹減った」 「う、うん」 なんて都合のいい男なんだ。そしてなんて都合のいい女なんだ、わたし。カズヤが来るかもしれなかったから、部屋は奇麗にしておいた。鍵を開けて部屋に入るとカズヤはいつも通りわたしの布団にダイブして「真帆のにおいだ〜」とかいって枕に顔をうずめた。 「今日予定入ったんじゃないの?」 「あー、解決したから」 「ふぅん。楽しかった?」 「全然。真帆といたほうが楽しいわ」 「・・・!」 「わー照れてるー」 「うるっさい」 「晩御飯なに?」 「イワシのお刺身」 「時間かかる?」 「うん」 「じゃあちょっとこっち来て」 「なに?」 買ってきたものを冷蔵庫に詰めているとカズヤに呼ばれて、行かないでいると「いーからいーから。こっち来てみ」とベッドの上から手招きされる。食材をしまいきって、カズヤのもとへ行くとカズヤは腕を伸ばしてわたしの手を引っ張った。 「うわ、ちょ!」 「はっはっは」 倒れ込むわたしをカズヤは体で受け止めてぎゅううと抱きしめて、嬉しそうに笑った。 「晩御飯作れないんだけど!」 「もうちょっとこのまんまで」 「・・・もう」 全然気がつかなかったけど、土曜日なのにカズヤはスーツを着ていて、もしかして休日出勤でもしたのかな、と勝手な想像をした。 「おつかれさま」 「ん?なにが?」 「なんでもなーい」 「俺も作るの手伝うわ」 「ほんと?助かる」 「早くご飯食ってやろうぜ」 「!?!?」 「なーんてな」 |