「うわああああああん卒業しないでえええええええ!!!」


みっともないくらいに泣いて、わたしは最後の最後で手嶋先輩に迷惑をかけた。そりゃ自転車競技部のマネージャーとして幾度となく迷惑をかけ続けていた。もう迷惑はかけまいと思った卒業のその日に、結局わたしは大人になれずにいた。


「うわっうるせぇ!」


最後の花道を通って、校庭に出た先輩に抱きつく。そんなわたしを引き離そうとする先輩はやはり先輩で、嫌そうな顔しながらもその手には力がこもっていなかった。先輩卒業証書の入った筒でわたしの頭をぽんぽんと打って、「重いから離せよー」と言った。


「先輩の第二ボタンもらえるまで離さない」
「第二ボタン・・・?」


先輩はキョトンとした顔をして、「あーさっきやっちゃった」と笑った。先輩から離れてよくよく制服を見てみると前のボタンはないし、袖のボタンもないし、ネクタイもない。


「エエエエエエエエエ!!!!」
「いや―ここにくるまでに寄ってたかって取られちゃってさ、正直誰が俺のボタン持ってるかわかんねーんだわ」
「なんで!わたしの分は!?」
「ははははは」
「笑い事じゃなーい!」


わたしがポカポカと先輩の胸を叩く。わたしのためなら取っておいてくれると思ったのに。なんてひどい先輩なんだ。マネージャーとして頑張って尽くしてきたわたしに対する最後の行いが、こんなことになるなんて。

先輩のことずっとずっと好きだった。ちゃんと言葉で言ったことはなかったけれど、きっとばればれだったはずだ。勘の鋭い手嶋先輩が、気づかないはずはない。


「悪かったって」
「手嶋先輩の意地悪」
「そうそう、俺は意地悪なのー」
「ぐぬぅ」
「そんな顔すんなって」
「だって明日から会えないんだよ、先輩」
「んーまぁたしかに」
「会えないんだよ・・・」


毎日会っていたのに、明日からは、もう会えない。
そう思うだけで辛くなってくる。


「しょうがねぇなあ」


先輩は胸ポケットから黒マジックを取り出すとわたしの手のひらに「いつでも会える券」とでかでかと書いて、満足げに笑った。


「呼べばいつでも会いにきてやっから」


わたしの右手は、魔法が使えるらしい。

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -