「あ、見つかっちゃった」
「見つかっちゃったじゃないよ。全校集会始まったから早く体育館行って」
「えー今から行くと目立っちゃうじゃん」
「目立ちたくないなら最初から体育館にいればいいんだよ」
「わたし一人いないくらいなんてことないよ」


そう言われて返す言葉がなかった。

空き教室の一室に僕の生徒が一人、雨に打たれる窓を見ていた。僕の生徒、と言っても副担任だから、すべてを受け持っているわけではないのだけれど。
担任先生に「内田が見当たらないから探してきてくれ」と言われてものの5分でみつけることができた。サボり癖のある内田の行動を把握できるくらい、僕と内田はいつもかくれんぼをしている。


「僕に見つかる前に集合してよね。後で怒られるの僕なんだから」
「わー先生のくせに怒られるの気にしてやんのー」
「うるさいな。ほら、行くよ」
「月島せんせーがちゅーしてくれたら、行く」
「・・・またそういうこと言う」


長い睫毛を伏せて、内田はアヒルみたいに唇をつきだした。
つるりとしたおでこにデコピンをお見舞いしてやると内田は「ひどい」と言っておでこをさする。
何考えてるか、さっぱりわからない。
僕は教師で、内田は生徒だと言うのに。


「僕たちそういうことする関係じゃないデショ」
「いじわる」
「いじわるじゃない」
「じゃあ全校集会行かない」
「あ、そ。じゃあ僕戻るから」
「え!!」
「頑張って探したけど内田のこと見つけられませんでしたって言う」
「嘘つくんだ」
「臨機応変に嘘はつくよ」
「月島せんせーって先生に向いてないと思う」
「僕もそう思ってる」


なにか言いたげな内田を背に、空き教室のドアを引いた。
後ろをそっとうかがうと、内田はものすごい勢いで僕に向かって突進してきて、慌ててのけぞるとネクタイをがっと掴まれて、それで


「・・・なに するの」
「なにって、ちゅー?」
「あのね、僕たちは教師と生徒なんだよ」
「知ってるよ。じゃあわたし全校集会行くから」
「・・・は」
「ちゅーしたら行くって、さっき言ったじゃん」


ああ言えばこういう。
なんて面倒くさい生徒なんだ。
確かにキスをした唇を指でなぞる。


「・・・口紅なんてつけて、大人ぶって、」


背伸びでもして僕に追いつきたいのか。

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