「今宵あなたの血をいただきに参りました」


施錠したはずの窓から黒いマントを羽織った男がやって来た。
晩御飯を食べている最中のわたしはびっくりして窓からやってきた男を見る。
真っ黒な髪の毛に、とがった歯。


「誰」
「あなたの吸血鬼です・・・ってクサ!!!!」
「あ、いま餃子食べてるから」
「帰る!!!!」
「ああ、うん。バイバイ」


窓を開けて「ちゃんと換気しろよ!!」と言って吸血鬼さんは飛び下りた。
ここ三階なんだけど、飛び下りた。
慌ててわたしは窓に駆け寄る。
黒いマントの男は道路にも、どこにもいなかった。

ニンニク増量の餃子食べててよかった。



+



「今度こそあなたの血をいただきに参りました」


施錠したはずの窓からまたあの黒いマントの男はやってきた。
晩御飯を食べ終えてハーブティーを飲んでくつろいでいたわたしはびっくりして黒いマントの男を凝視する。
どうやらこの間の男と同一人物らしい。


「って何この匂い!!!」
「ハーブティーだけど・・・飲む?」
「いらない!」
「美味しいのに」
「帰る!!」
「ばいばーい」
「覚えてろよー」
「うんうん。覚えておく」


ガラリと窓を開けて、わたしの方に向き直り「俺、高尾っていうんだ」とわたしに言って、また飛び下りた。
高尾って・・・もろ日本人じゃん。
吸血鬼って言うから、西欧系かと思っていたのに。
ずず・・・とハーブティーを飲む。
こんな夜に飛び下りるなんて、きっと寒いだろうなぁ。
ハーブティー、飲めばいいのに。



+



「有無もいわせません。血をいただきます」


窓をガラリと開けて、またあの男はやってきた。


「食べる?カレー」
「カレー??何この匂いしかも目が痛い」
「美味しいよ」
「アンタが作ったの?」
「アンタじゃなくて真帆」


不思議そうに首をかしげて高尾はわたしのことを見る。
カレーに唐辛子たくさん入れたから、たぶん高尾は食べられないだろう。
吸血鬼だから。


「腹減ってるし、食べる」
「えっ!」
「なんで驚くんだよ。真帆が食べるか聞いてきたんだろ」
「唐辛子入ってるよ」
「食うから持ってきて」
「わ、わかった」


自分の分と高尾の分のカレーをよそって持って行く。
椅子に行儀よく座った高尾はキラキラした瞳でカレーを見ている。


「いただきます」


そして行儀よく手を合わせた。


「辛い!!!!」
「唐辛子入ってるっていったじゃん」
「でも、食う」
「なんで?」
「俺、真帆に会うために、色々克服してきたから」
「へ?」
「ニンニクも大量じゃなかったら大丈夫だし、唐辛子も少しなら平気」
「なんでそこまでするの?」
「はじめてなんだ」
「なにが?」
「人間の血が、まずそうに思えたの」
「え、わたしの血まずいかな」
「うん」


高尾はスプーンにたくさんのカレーをのせて、大きな口を開けた。


「だって辛いものもクサイものも食べるじゃん」
「じゃあなんで何回もわたしのところに来たの」
「なんでだろ。まずそうだから、気になって、かな」


辛い、と涙目になりながらも高尾はよそったカレー全部を食べきって、言った。


「こんなもの毎日食ってたら、血だって美味しくないわ」
「帰る?」
「うん」
「ばいばい」
「また来る」
「え」
「今度はニンニク使ってなくて唐辛子も使ってないご飯用意しといて」
「やだよ。そしたらわたし高尾に血を吸われてしまう」
「吸わないって約束する」


そんな約束、信じられないんですけど。


高尾はマントを翻して、三階の窓から飛び降りた。
残った食器が、高尾が存在していることは夢ではないのだとわたしに伝えてくる。


夜風にカーテンが揺れた。


「ちゃんと窓閉めていってよ」

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -