明日雪でも降るのか?この俺が定時退社だと?
花の金曜日。いつぶりか分からないくらいの定時退社。このまま一杯ひっかけにいきたいところだけど、みんな死んだ魚の目してるから誘わずにまっすぐ帰宅。しようかと思ってたのに、 そういや最近アイツこっちこねぇな なんてぼんやり考え込んでしまった。マメな方じゃないから連絡なんて必要最低限しかとらない。それにアイツいま繁忙期らしいからこっちこねぇし。


「そーだナー」


行くか、箱根。


電車乗り継いで乗り継いで、地元に着いたのは夜の九時前。タクシー乗って実家に行くとまずアキチャンが俺の足もとにじゃれついて、オカンが「あらあらまあまあ!」なんつって「アンタの部屋今物置になってるよ!」って言うもんだから嫌な予感がして部屋行ったら足の踏み場ないくらい物で埋まってた。年に一回帰るか帰らないかだから気持ちはわからんでもないけど、息子の部屋くらい奇麗に取っておいてほしかった。


「ん。東京土産」
「ありがと。そういえばアンタ真帆ちゃんと付き合ってるんだって?」
「はあ!?誰がンなこと言って・・・!」
「真帆ちゃんから聞いた」
「まじかよ」
「真帆ちゃんなら安心して任せられるわー」


オカンは豪快に笑う。昔からオカンとアイツは仲が良いとは思っていたけど、まさかこれほどとは。付き合ってるって言うか、なんつーか、結婚を前提にお付き合いしていると言うか。


「あーもう俺どこで寝ればいいんダヨ」
「どこかに宿取りに行けばいいじゃない」
「あのさァ・・・」
「ウフフ!」
「ウフフじゃナイ」
「真帆ちゃんと二人で!」
「あのねェ・・・」
「オホホ!」
「オホホじゃナイ」


適当に荷物を置いて、前に来た時にそのまま置いていった服に着替えた。ポケットに財布をねじ込んでスマホ片手に家を出る。連絡帳を見て地元に残った奴ら誰かに連絡をしようとして、真帆の名前で思わず手が止まった。せっかく帰ってきたんだし、いやでもアイツ繁忙期らしいし、会わない方が良い。カナ。なんてうだうだ考えてる自分が気持ち悪くて、でも誰かに連絡を取ることなく、近所をぐるぐると歩きまわっていた。まるで不審者。


つーかなんで俺帰ってきたんだろ。


ふと立ち止まって考える。答えなんて分かってるのにネ。


「真帆に連絡すっかァ」


真帆の名前をタップして電話をかける。足は自然と真帆と青春を過ごした学校へ向かっていた。


「あーもしもし?俺ェ」

「仕事終わったノ?」

「いや、今コッチいるから」

「たまたま定時退社だったんダヨ」

「いや本当にコッチいるから。親に確認取ってもらってもイーヨ」

「なにしにって・・・真帆に会いに?」

「あーハイハイ。照れ隠しはいらねェから。ちょっと迎えに来て。車デショ?」

「今?ハコガクの近く」

「ん。じゃー待ってる」


そういえば俺、アイツを待っていたこと、一度もねェや。いつも待たせてばっかりだ。まぁたまにはこんなのも悪くねェかな。

ガードレールに腰掛けて煙草に火をつける。


「まだかなァ」


星空に俺の吐く白い煙が消えていった。

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