毎週木曜日になると決まってあいつはやってきた。一応ノー残業デーなんて名前のついている木曜日だが、いつもよりは早く帰るようにしてはいるが、残業そのものはきちんとやっている辺り俺はやっぱり社畜なんだろう。晩御飯作ってテレビ見ながら俺の帰りを待っているあいつはなんだか通い妻みてェだと思った。恋愛感情なんてこれっぽっちも沸いちゃいネェが、誰かが俺の帰りを待ってくれているって言うのは、悪い気はしない。

マンションの前に立って、自分の部屋を見る。今日もカーテンから灯りが漏れていた。ここに着く前に寄ったコンビニの袋がカシャカシャ鳴る。中身はビール。発泡酒じゃなくて。エレベーターのボタンをポチリと押すといつもと変わらないスピードでエレベータが降りてきた。


(結婚って どんな感じなんだろうナァ)


少し前に出席した結婚式のことを思い出す。新郎も新婦も幸せの絶頂みたいな顔して、高砂に座っていた。俺もいつかあんなとこに座るのか。想像つかネェや。

インターフォンを押さずにドアノブを捻る。ドアを開けるとワンルームの奥から「おかえりー」と声が聞こえた。もう何度も聞いてる「おかえり」なのにほっとしている自分がいて、笑えてきた。廊下に併設されているキッチン。横を通り過ぎるとカレーの匂いがした。冷蔵庫にビールを二つ入れる。狭いワンルームの壁を背もたれにするように真帆は座っていた。


「今日もお疲れ様ー」


幼馴染である真帆はヘラリと笑って立ち上がった。


「今日の飯なに?」


なんてカレーの匂いに気が付いているのに聞いてみると、「チキンカレーです」と真帆は答えた。「温めてくるから座って待ってて」

楽なスウェットに着替えてテーブル机の前にドカリと座る。しばらくすると真帆がカレーをよそって持ってきてくれた。まだそんなに遅い時間じゃないからなのか、今日は一緒に真帆も食べてくれるらしい。二人分の食事がテーブルに並んで、結婚してるみてェだと思ってしまった。何だ俺さっきからケッコンケッコンって。


「あ、ビール取って来てくんネェ?」
「はいはい」
「二本ネー」
「二本?」
「ウン」
「わかった」


さっき冷蔵庫に入れたばかりのビールを取り出して真帆はテーブルに置いた。


「いただきます」
「いただきます」
「ビールとカレーって合うの?」
「ワカンネ」
「靖友は挑戦しますなぁ」
「マァネ。・・・真帆も飲めば?」
「えっ、わたし車で来てるんだけど」


うん、分かってる。いつも車で来てて、そのまま帰ってるからね。わかってるって。それなのに俺がお酒勧めてんだもん、意味分かるっしょ。なんて察してチャン構ってチャンは良くないよネ。でも、真帆も真帆だよ。どぉぉおおでもいい男の部屋に毎週やってくるわけないデショ。どおおおおでもいい男にこんなに尽くしてくれたりしないダロ。


「泊ってけば?」


真帆はビールをぐいっと飲んで、翌朝早朝帰った。俺は手を出さなかった。(ヘタレの称号を甘んじて受けよう)

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テーマ「人外ファンタジー」
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