高校を卒業して上京したわたしは、夏休み、久々に故郷へ帰ってきた。大学からそれほど離れているわけじゃないけど、帰る理由なんて無いし、バイトを始めたりなんだりしていたら、結局夏休み入るまで帰らなかった。
故郷に不満なんてなかった。ただ上京して、都会に囲まれたかっただけで、実際行ってみたら空気は汚れているし、空は狭い。故郷に戻って来て、地元の素晴らしさを知った。
地元に残っている友達が遊んでくれると言っていたので、待ち合わせを母校にした。分かりやすいし、わたしが母校をもう一度見たかったから。

母校までの道のりはわたしが通っていたころとほとんど変わりはない。通学路にある街路樹は青々としていて、木陰を作ってくれる。もう生徒じゃないんだし、学校に入るわけにはいかないよね。そんなことを思って街路樹の木陰で友達を待つことにした。
キーンコーンカーンコーン。少し前まで毎日聞いていたチャイムが鳴り響く。腕時計で時間を確認すると、放課後に入るチャイム出ということが分かった。


青春だったなぁ。


マネージャーとして三年間、わたしは自転車競技部に所属していた。間違いなく青春だった。引退してからぽっかりと心に穴が開いたようで、その穴を埋めるために受験勉強していたようなもの。選手でもないわたしが推薦なんてもらえるわけがないから。
もうすぐIHが始まる。新部長となった彼は、どうしているのかな。真面目な子だったから、きちんとやっているに違いないけれど。わたし以外のOBはたまに来ていたりするのかな。
そんなこと考えながら学校を眺めていると「自転車競技部集合!」という元気な声が聞こえてきた。


ロードを脇に、自転車競技部の面々が列をなしている。その目の前にいるのは間違いなく泉田くんだ。泉田くんがコーチから受け取った今日のメニューを部員たちに向けて声を張り上げている。・・・大人になったなぁ。親戚のおばちゃんみたいなことを考えている。たかだが数カ月離れていただけなのに、その泉田くんの姿は大人びて見えた。
メニューを部員に伝えた後、部員たちは各々ストレッチを開始した。その隙を見計らって校門から「泉田くん!」と呼ぶと、きょろきょろしてわたしを探した。そしてすぐに見つけると、ずっと見てきたあの笑顔をわたしに向けて、わたしの方へ走ってきた。


「先輩!」
「泉田くんお久しぶり!」
「お久しぶりです!」
「今大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。ストレッチ中ですし」
「ならよかった。インハイもうすぐだね」
「はい。これからが正念場です」
「期待してるよ」
「任せてください」


本当に大人っぽくなった。メンタルも強くなって、もうわたしの知っていた泉田くんじゃない。それが寂しくもあり、頼もしくも見えた。


「泉田くん、髪の毛伸びたね」
「はい。先輩も」
「マネジやってた頃は髪の毛長いと邪魔だったからねぇ」
「奇麗になりました」


そう言って、泉田くんはわたしの髪の毛をサラッと撫でてすぐに、顔を真っ赤にして「す、すみません!」と言って手をひっこめた。


「いや、割と悪くなかった」
「え、」
「泉田くんに髪の毛撫でられるの」


わたしがそう言うと泉田くんは照れ臭そうに笑う。


「インハイ、必ず見に行くね」
「はい、待ってます」


君の勇姿を、目に焼き付けに。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -