背が高くて、誰よりも猫背で、いつも一番後ろの端っこの席で講義聞いてるあの人が みどうすじあきら って名前だって知ったのは、つい最近のこと。
どこの学部かはわからない。たまたま同じ授業とってたってだけで接点はほとんどない。でもみどうすじくんの異様な雰囲気はみんなを圧倒していて、知らない人の方が少なかった。名前を知らなくても、あのすごく猫背の人、とか、ちょっと爬虫類ぽい人、とか言えば、同じキャンパス内の人ならだいたいに通じる。
みどうすじくんは有名人だ。みどうすじくんはそんなこと気にしていないようで、軽く避けられていても、全く動じていない。いつも流されてばかりのわたしからしてみたら、そのみどうすじくんの姿勢は尊敬できるものだった。

みどうすじくんは至って真面目な人物で、講義をサボったことはないように見える。わたしもサボったことはなく、そのわたしが毎回みどうすじくんの姿を見つけているから、それは間違いない。毎回見つけるのに、ただの一度もみどうすじくんの声を聞いたことはないように思えた。


そのみどうすじくんが、今日、講義に来なかった。


わたしは今日もいつも通りの席に一番にたどり着いた。次々と見知った顔がやってくる中、すごく猫背のみどうすじくんはやって来ず、講義が始まってしまう。全然喋ったことも、関わったことすらないのにわたしはなぜかみどうすじくんが心配で、「風邪でもひいたのかな」とか「遅刻してくるのかな」とかいらないことばかり考えていた。結局みどうすじくんは遅刻でもなかったようで、講義中にやってくることはなかった。


はじめて、みどうすじくんが欠席した


講義が終わっても立ち上がる気になれなかったわたしはそのまま座り込んでいる。誰もいなくなった講堂はさっきよりも広く感じられた。もし仮にみどうすじくんが風邪を引いて欠席したとしても、遅刻して間に合わなかったとしても、わたしがみどうすじくんのためにノートをコピーするのもなんだか妙な気がする。おせっかい、ありがた迷惑。なんでこんなにみどうすじくんに何かしてあげたいと思うのかな。いつもみどうすじくんが一人だからなのか、それともわたしが尊敬しているからなのか。

考えるのはよそう。荷物をまとめて席を立つと、バタンと扉が大きく開いて、大きなシルエットが現れた。ひどい猫背のそのシルエットには心当たりがある。


「ピギィ…寝坊してしもた」


聞きなれない言葉に、聞きなれない声が耳に飛び込んでくる。ばち、と目が合うとみどうすじくんは


「真帆ちゃん、ノートコピーさせておくれやす」


と言った。みどうすじくん、もしかして京都の人だったんですか。っていうかなんで、


「わたしの名前知ってるの?」
「知らん方がおかしいやろ」
「え」
「おんなじ授業とってるんやから」


そういうもんなの?
と思いながら、いつの間にかわたしの目の前にやってきたみどうすじくんにノートを手渡した。

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