「いらっしゃいま、せ」
「おー久しぶりじゃん」
「手嶋くん」
「元気にしてたか?」
「うん。元気にしてた」


高校を卒業してから疎遠になっていた元クラスメイトと、こんな風に再会するなんて。
わたしがアルバイトをしている、ちょっとこ洒落た居酒屋に手嶋くんは現れた。卒業してから二年、全く会っていなかった。手嶋くんは県外に進学したと聞いていたから、会わなくなるのは当然だ。部活一本の手嶋くんに恋をしていたあの青い毎日を思い出す。わたしも若かった。もちろん手嶋くんもだけど。
すっかり忘れていたのに、一目見るだけですぐに思い出せるなんて、ね。


「まさかここで内田に会うなんて思ってなかったよ」
「うん。わたしも。あ、案内するね」
「一人だからさ、カウンターでもいい?」
「あ、どうぞどうぞ」


いつもしている営業スマイルを手嶋くんに向ける。見ないうちに、すごく大人っぽくなった。お互いお酒も飲める年齢になったんだから、それはそうだろう。まだ飲むにしては早い時間帯で店内はガラガラだ。手嶋くんはカウンター席につくと被っていた帽子を脱いで傍らに置いた。


「な、内田ってシャカシャカするやつできんの?」
「それはできないなーマスターにやってもらってる」
「そっか。何にしようかな。何がお勧め?」
「生ビール」
「マジか」
「うん。ジョッキ凍ってるからすごく美味しいよ」
「じゃあそうしようかな」


いつもするみたいにビールを注いで手嶋くんの前に置く。もちろんコースターも忘れずに。簡単なお通しも一緒に。今日のお通しは実はわたしが作った奴なんだけど・・・手嶋くんに食べてもらうなんて考えてもなかったから普段通りに作ってしまった。気合入れておけばよかった・・・!


「あービールうめーお通しうめー」
「ほんと?よかったー」
「熱くなってきたから最高だね」
「間違いないね」
「あ、チーズの盛り合わせくれる?」
「わかった。マスターチーズ盛り合わせー」
「なんだ内田がやってくれるわけじゃないの」
「うん。そこはマスター管轄」
「なんか内田が作ってくれるメニューとかないの?」
「きょ、今日のお通しはわたしが作ったんだよ」
「まじで!?すげぇうまいんだけど」
「それはよかった」


手嶋くんが美味しいって言ってくれただけでわたしは働いた意味があると思う。
時間とともになくなったと思っていたきもちはまだちゃんと胸の奥底に眠っていて、会ったら すきだなー なんて実感してしまう。会わないでいたら、こうは思わなかったのかな。手嶋くんはペース配分を考えて上手にお酒を飲んでいた。少しずつ赤くなっていく頬が可愛くて、思わず触りたくなってしまう。


「お客さんこないね」
「そうだね」


手嶋くんが来てくれたけれど、今日の客足は全然伸びない。他のお客さんが来ることもなくもう23時を迎えようとしていた。手嶋くんと話をしていたから時間が経つのがすごく早く感じられたけど、マスターは裏にこもり切って明日の仕込みしてるし、で正直暇だ。


「内田何時まで?」
「一応十二時までの予定だけど」
「そっか」
「手嶋くん大丈夫?なんか顔赤いけど」
「ちょっと飲みすぎたかもしんないなー」
「お水持ってこようか」
「お願いできる?」
「うん」


グラスに氷を入れてミネラルウォーターを注ぐ。テーブルにグラスを置くと手嶋くんはわたしの手ごとグラスを握り、赤い顔して言った。


「バイト終わるまで 待っててもいい?」
「いい、けど」


そんなこと言われたらわたし、期待しちゃいますよ。

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