ラブホに着いて鞄をベッドに放り投げて、振り返った。


「思ったよりきれーだねー」





たまたま一人で飲みに行ったらそこには新開クンがいた。新開クンはわたしの一つ下で、営業のホープとか呼ばれている人。イケメンな上に仕事もできるとなれば周りがほっとくわけがなく、彼は仕事がなければしょっちゅう飲み会に行っていた。特に接点があるわけではないけど、合コンに呼ばれて行けば彼がいることは何回かあって、顔見知り程度にはなっている。
カウンターに座って強めのお酒を煽っていると、新開クンがマスターに「SKYください」と言いながら、わたしの隣に座ってきた。仕事帰りにそのまま来たようで、ネクタイを少し緩めてワイシャツの袖を腕まくりしている。わたしは家に帰ってから楽な格好に着替えただけだから、こんな格好で会うのは少し恥ずかしいんだよなぁ。


「あれ、グループで来てたんじゃなかったの?」


わたしが店に入った時に、新開クンは何人かとテーブル席にいたから、わたしの隣に座るとは考えもしなかった。マスターがケースからSKYを取り出して栓を抜き、新開クンの前に置く。「まさか二人が知り合いだったとはなー」なんて言いながら。新開クンはぷっくりした唇でSKYの小瓶を煽る。うーん、この人がモテるのはよく分かる。うん、セクシーだもの。


「そうだったんですけど、内田さんが来たから」
「えー先輩に気を使ったの?そんなことしなくていいのに」
「いいじゃないですか。こうやって二人でデートみたいなことしたことないじゃないですか」
「これってデート?」
「周りから見たら、間違いなく」
「わたし口説かれてるのかなぁ」
「口説いてるんですよ」
「あはは、冗談はヨシコさんだよ」
「なんですか?それ」
「え、知らないの?」
「知らない」
「これがジェネレーションギャップってやつか」
「ひとつしか変わらないじゃないですか」
「そうだけどね」


お互い顔を見ながら話をしたわけじゃない。わたしと新開クンの視線の先にあるのは、バーカウンターの向こう側にあるお酒のボトルの数々。気づかれないように、その横顔を見てると、抱かれたいなーと思うのは、仕方ないことだと思う。


「俺の顔になんかついてます?」
「ついてないよ」


見ていたことがばれたのか、新開クンはわたしの方を見て言った。なにも、ついてない。垂れ目ふたつと筋の通ったお鼻にぷっくりした唇がついているだけ。


「内田さん酔ってるんですか?」
「まさかー」


くい、とお酒を一口煽って、空になったグラスをカウンターに置く。カラン、と氷が溶けた。どうしようかなーまたなんか頼もうかなー。そんなこと考えていたら、新開クンはぐびぐびとSKYを飲みほして、マスターに言った。「チェックで」新開クンはわたしの分とグループの分のお会計をさらっと払って、自分の背広を持って、わたしの手を引いた。わたしの分の支払いをしてくれたことにわたしの頭の中はハテナマークで溢れていたのに、手を引かれたことによってそのハテナマークは消えた。


「デートですよ、行きたいとこ、どこですか?」
「ホテルしかないんじゃない」





バスタブにアロマオイル垂らしてお風呂を沸かす。あーこれ泡泡になるやつだー。オーロラバスって書いてあったから多分どこかにボタンがあるはずなんだけど・・・。酔いのまわり始めた頭で考える。すると後ろからすっと手が伸びて、新開クンがボタンを押した。


「はい。オーロラバス」
「きれいだねー」
「なんか内田さん慣れてますね」
「え、慣れてないよ?」


実際のわたしは内心焦っていて、どうにかして大人ぶって見せたいとしか考えていなかった。この年になればラブホテルなんて来たことあるし、設備なんてどこもだいたい一緒なんだから分からないわけがない。さてお湯も沸かし始めたことですし、部屋に戻ってお酒でも飲もうかな。なんて思っているのに新開クンとバスタブに挟まれて身動きが取れなかった。


「あの、新開クン?」


ぷっくりとした唇が開く。


「口説いてるんですよ」


その唇にふれたら、どうなってしまうんだろう。触れてから考えればいいか。
バラのアロマの香りがバスルームを満たす。わたしは目を閉じた。

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